日本発のパブリッシャーになる、その野心とは?
プラチナゲームズの新たな挑戦
佐藤賢一氏(プラチナゲームズ) × 上田哲弥・上田 源(ジェイアール東日本企画)

中之島サロン VOL.16

(写真右)プラチナゲームズ株式会社 代表取締役 佐藤 賢一氏
(写真左)jeki関西支社 京都支店 上田 哲弥

「BAYONETTA」シリーズや「NieR:Automata」など、人気アクションゲームの企画・開発で知られるプラチナゲームズ。2020年1月にテンセント・ホールディングス社との資本提携を発表し、自社IPソフト(自社が知的財産権を保有するゲームソフトのこと)の開発及び販売に取り組むことを宣言しました。

今回は、同年4月に開業した東京での開発拠点「プラチナゲームズ TOKYO」に、同社代表取締役社長の佐藤賢一氏を訪ね、ジェイアール東日本企画関西支社 京都支店の上田哲弥と、関西支社営業部 プランニングプロモーションチームの上田 源がインタビュアーとなり、プラチナゲームズが自社IPのタイトルにこだわる理由、そして新たなステージにおける展望について伺いました。

自社IP事業という、険しい山にあえて挑戦する

上田(哲):2021年2月に15周年を迎えられたそうで、おめでとうございます。その間、人気タイトルを次々と開発され、実力あるゲームメーカーとして世界的にも知られる存在となりました。

佐藤:ありがとうございます。ゲームという産業は、もとは日本勢が強かったのに、近年の市場規模をみてみると海外勢に押されがちです。もう一度日本発のゲームで世界を驚かせたいと思い、会社を立ち上げました。設立時から「ユーザー満足度世界一のゲームスタジオになろう」という想いのもとゲームの開発に取り組んできました。これまでに17タイトルほど世の中に送り出してきましたが。その中で、私たちがこだわり続けてきたのが、「World Wide」「Originality」「High Quarity」の3つです。いままではセガさん、任天堂さん、コナミさんやスクウェア・エニックスさんなど様々なパブリッシャーと組んで、デベロッパーとして請負という形でゲーム開発に携わってきました。

上田(源):私も相当楽しませていただいておりますが、プラチナゲームズといえば、やはりアクションゲームの印象が強いですね。デベロッパーでありながら、ブランドとしての強みを確立できたことについてどのように思われますか。

佐藤:我々は、デベロッパーという立場ですので、本来であれば、あまり表に立つことはないのですが、かなり顔も口も出す“モノ言う”開発スタジオだったので(笑)。パブリッシャーさんの理解もあってプラチナゲームズらしいオリジナリティを発揮することができ、また我々の得意とするアクションゲームを中心に、クオリティの高いゲームを世の中に送り続けた結果、「アクションゲームのプラチナゲームズ」として認知していただけるようになったのだと思っています。またクリエイティブ面のクオリティだけでなく、全ての開発工程を社内完結できるスタジオとして組織づくりができたことも、業界の信用につながったと自負しています。

上田(哲):そんな御社が、テンセント・ホールディングスからの資本を受け、自社IPによるオリジナルタイトルの開発に取り組むと発表されました。ゲーム開発は資金も期間も相当に必要となり、リスクも大きいと聞きます。

佐藤:そうですね。1タイトルの開発には2〜3年はかかりますし、費用も数億、数十億とかかります。それでも私たちが挑戦する理由は…まず一番には「楽しそうだから」でしょうか(笑)。プラチナゲームズの社員は皆ゲームが大好きで、ゲームを創ることが大好きです。自分たちが考えるゲームを形にしたいと考えています。先ほども申し上げましたが、デベロッパーという立場で請負というスタイルでもかなり自由に開発をさせてもらってはいますが、全く制約がないわけではありません。自分たちのアイデアを自分たちの手で自分たちの思うとおりに形にしたいと考えたのです。

そして、もう一つは事業的、経営的な判断があります。請負というビジネススキームは発注先あっての商売です。自立した事業の柱がほしいと考えました。また、いままで我々が創ってきたゲームソフトの著作権は、すべてパブリッシャーさんに帰属します。例えばシリーズものをつくりたいと思っても、すべてパブリッシャーさんの意向次第ですし、自分たちが創ったソフトの宣伝をする際も、パブリッシャーさんの許可が必要なのです。
自分たちの資金で自社IPを創出することは確かにリスクもあります。ただ、我々が創ったゲームソフトを直接ユーザーに届けたい、それができてこそ「真のユーザー満足度世界一のゲームスタジオ」の実現があると思っています。
ビジネス面においても、リスクの大きい分リターンも大きいですし、またそのIPを利用した様々な展開も可能です。険しい山だとは思っていますが、恐れず挑戦していきたいと思っています。

上田(源):創業時から自社IPでの開発を目指されていたのですね。

佐藤:はい、創業時からの夢ではありました、テンセントさんとの出会いがあって、自社IPを創出して自立していきたいという我々の想いを伝えたところ、その想いに共感してくれて、また我々もテンセントさんの自主性を重んじるという投資スタイルに共感し、2019年末に資本提携が実現しました。テンセントさんとの資本提携により、経営基盤が強化され、自社タイトルのパブリッシング事業を目指す体制が整いました。

次のステージに向けて、新しい組織・環境づくりに取り組む

上田(哲):いわば新規事業でもあるわけで、組織・環境づくりは大変だと思います。具体的にはどのようなことに取り組まれているのですか。

佐藤:やはりゲームは人が創るものなので、まずは優れた人材を確保していくことが重要です。そこで、まずは受け入れるための仕事場を拡張しようということで、2020年4月に東京での開発拠点として「プラチナゲームズ TOKYO」を立ち上げました。これまで大阪本社を中心に開発を行ってきましたが、やはり人材は東京近郊に集中している傾向があります。東京近郊にお住まいで当社に興味がある方であっても、大阪に移転することに二の足を踏む人も少なくないのでは?と思っていました。思ったとおり、「プラチナゲームズ TOKYO」を開設してからは、応募者数が飛躍的に増え、既に東京だけで40人以上が働いています。

上田(源):こうして東京のオフィスを拝見すると、内装もスタイリッシュで遊び心があるというか、最先端のゲーム会社という感じですね。大阪のオフィスもリニューアルされたと伺いました。

2018年の大阪オフィスの様子 ※提供:プラチナゲームズ

佐藤:リニューアルは約3年前(2018年8月)に行いました。大阪のオフィスの特徴の一つは、パーテーションのない開放的なところだと思います。これは、我々がゲームを創る際に一番大事にしている、コミュニケーションを取りやすくしようという考え方からきています。ゲームは一人で創るものではなく、みんなの意見、知恵を出し合いながら作り上げていくものなので、パーテーションで仕切られたものではなく、気兼ねなくいつでもコミュニケーションが取れるよう環境作りに配慮しています。

昨年からのコロナ禍により、現在は会社と自宅の両方で仕事ができるよう、開発環境の二重化を実現し、室内が密にならないように、プロジェクトごとにローテーション勤務を行っています。最初は戸惑うことも多かったのですが、現在は大きな問題もなく開発作業を行えます。とはいえ、在宅勤務の時間が長いと、コミュニケーションが取りづらいという意見も多くあるので、これからの大きな課題として解決する必要があると感じていますが、プラチナゲームズらしい新しい働き方を実践していきたいと考えています。

ゲームにも会社づくりにも、主体的に関わる人と仕事をしたい

上田(哲):新生プラチナゲームズとしていくために、どのような人材を求めていらっしゃるのですか。

佐藤:結論から言うと、シンプルに心からゲームが好きで、面白いゲームをつくりたい人ですね。さらに言えば、現在、プラチナゲームズは、次のステージに進むため、社内では「第二創業」というキーワードを掲げています。創業して15年経ちますが、もう一度会社を一から創り上げる気持ちでいようということです。単にゲームをつくるだけでなく、第二創業期として会社づくりにも興味がある人と一緒に仕事をしたいとも思っています。会社を創業するという挑戦を魅力と感じる人が望ましいです。第二創業というキーワードを掲げたタイミングに合わせて、社内の組織をゲームをクリエイトする「ゲームクリエイティブディビジョン」と、総務や庶務など会社をクリエイトする「コーポレートクリエイティブディビジョン」の2つの部門に分けました。いずれも「クリエイティブ」とつけているのは、社員全員がクリエイターであってほしいという想いからなんです。クリエイト魂を持った人に集まってもらえたらと思っています。

なお、現在募集している「ゲームクリエイティブディビジョン」の職種は、プログラマー、アーティスト、サウンド、ゲームデザイナーの4職種に加えて、プロデューサーや開発サポート職など多岐にわたっています。詳しくは、ホームページを見てほしいです(笑)。まだまだ人材は不足しているので、チャレンジ精神が旺盛な人からの応募を待っています。

上田(源):具体的にはどのようにしてゲームをつくっていくのですか。

佐藤:基本ディレクターが先頭に立ち、チーム全体で「面白さ」を共有し、最終的にはそれぞれのアウトプットを持ち寄って創り上げていきますが、特に我々の制作スタイルで特徴的なことは、どんな職種であっても、自分に割り振られた仕事だけやっているようでは評価されないということだと思っています。つまり、一人ひとりがゲームをいっそう面白くするためにアイデアを出して手を動かして、議論して、協力し合ってギリギリまで磨き上げクオリティを全員で押し上げるということを一番大事にしています。だから「ここまでやらなくてはならないの?」という人ではプラチナゲームズのゲーム制作スタイルには向いていないと思います。「こんなにやらせてくれるの?」という人でないとついてこられないと思っています。自分の手でゲームを創っているということに喜びを感じられる人が面白いゲームをつくれるのだと思います。

上田(源):また、今後は世界を見据えてとなると、採用の形も変わってきますね。外国籍の方も採用されているのですか?

佐藤:はい、既に外国籍のスタッフは、全体で41名います。国籍も欧・米・亜など様々です。以前は日本語でのコミュニケーションができることを必須としていましたが、今後は能力重視で採用するケースも増えてくると思っています。人材については争奪戦ですが、その中でプラチナゲームズとしての魅力をどんどんアピールして、国籍関係なく優秀な人材を獲得していきたいですね。

※提供:プラチナゲームズ

いい意味でユーザーを裏切り続ける“やんちゃな”会社に

上田(源):面白いゲームとはどのようなものなのでしょう。また、今後はどう変わっていくのでしょうか。

佐藤:難しい質問ですね(笑)。ひと昔前は、家庭用ゲームといえば、売り切り型のものが主流でした。でも、現代のゲームは、そういったものに加えて、スマホのネイティブアプリと言われているものに代表されるように、継続的に課金しながら遊ぶといった、いわゆる運営型のゲームが家庭用ゲームでも広がりつつあります。また、オンライン機能はついていて当たり前となり、プラットフォームも時代とともに進化しています。いまやゲームは、家庭用ゲーム機だけではなく、スマホ、PC、またApple ArcadeのようなサブスクリプションタイプやGoogleのStadiaなど様々なプラットフォームで遊べる時代です。今後も技術革新とともにゲームを取り巻く環境やプラットフォームも進化し続けると思っていますが、我々は作り手として、作り手が面白いと思えるものを作り続けていくつもりです。それが、僕の考えるユーザーにとっても面白いゲームということです。

上田(哲):市場が拡大し、プレーヤーが増えているのですね。ゲームがそこまで人を惹き付ける理由はどこにあると思われますか。

佐藤:おそらく人間が持つ本能に訴えるところがあるのでしょう。勝ち負けにこだわって闘争心に火がついた、少しずつ強くなるといった成長に喜びを感じたり、スポーツにも似たところがあるような気もします。

上田(源):ゲームの世界が大きくなる中で、プラチナゲームズはどのように進化していくのでしょうか。

佐藤:私はよく会社を“山登り”に例えるのですが、まずは、登山隊(社員)の隊長(代表取締役社長)として、先頭に立って「この山の山頂(目標)を目指すぞ」と宣言します。登山には、悪天候で足止めをくったり、当初想定していたルートが崖崩れなどで通れなかったり、トラブルがつきものです。そのときに、一番大事なことは、登山隊全員が、目指す山頂を見失うことなく天候の回復を待ち、新しいルートを探して登り出すことです。みんながバラバラになってしまったら、山頂に到達することはできません。いま、プラチナゲームズが目指している山頂は、自社IPタイトルを世に送り出すということです。その山頂に登りきったらまた次に目指すべき山が見えるはずなので、まずは「皆で山頂の景色を見ようぜ!」と言っています。

上田(哲):自社IPを取得して、どのようなタイトルが登場するのか楽しみです。「プロジェクト G.G.」なども話題になっていますが…。

佐藤:そこはまだ何も言えませんね。後日の発表をお待ちください(笑)。今後についてはちょっと矛盾しているようですが、プラチナゲームズの“らしさ”の追求とともに、「こんなこともやるんだ!」とユーザーを驚かせるような意外性のあることも、やり続けていきたいと思っています。一言で言えば“やんちゃな”会社でいたいなと。たとえば、80年代にアーケード用ゲームとして人気を博した「ムーンクレスタ」の流れを汲む新作として「ソルクレスタ」を開発中であると今年4月に発表したのですが、アクションゲームが続いていた中で「こう来たか!」とユーザーからの評判が大変よかったんです。チャレンジをし続けないと会社としては面白くないし、事業も停滞する。今あるポジションにあぐらをかかずに挑戦し続けることが重要だと考えています。

正直、ゲームがヒットするかしないかは、世に出してみないと分からない。マーケティングが通用する商材ではありません。世の中に答えなどなくて、自分たちの中にある「面白い」と思うことを実現してはじめて、ユーザーに響くもの。その面白さのために「創り出す大変さ」は尋常ではありません。これからもそこに全力で集中し、面白いゲームを世に送り出していきたいと思っています。

上田(哲):本日はありがとうございました。

佐藤 賢一
プラチナゲームズ株式会社 代表取締役
1986年に株式会社伊勢丹に入社後、1996年にゲーム業界に転身。株式会社セガ・エンタープライゼス(現:株式会社セガ)にて、ドリームキャストのマーケティング業務に携わったのち、2000年に株式会社キャビア(現:株式会社マーベラス)の設立メンバーとして招聘され、会社運営全般の業務に携わる。2006年に有限会社ODD(現:プラチナゲームズ株式会社)を設立。取締役/管理本部長として、経営部門全般の責任者を務め、2016年4月代表取締役に就任。

上田 哲弥
jeki関西支社 京都支店
2018年jeki入社。京都営業所(現・京都支店)開設メンバーとして現職。伝統文化産業、金融サービス事業などの一般クライアント及び各種ソーシャルビジネスを担当し、マス媒体、Web広告、イベント企画運営など数多くのキャンペーンを担当。

中之島サロン VOL.14

なぜ今、地域特有の課題やリソースを活用した先進的な取り組みが活発になっているのか。地域だからこそ生まれるイノベーションとはどんなものなのか。jeki関西支社が、さまざまな分野で活躍される方々をお招きして話を伺いながら、その理由をひも解いていきます。

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