宣伝会議  谷口編集長インタビュー
~コモディティ化を突破する「個の力」~

jeki × 宣伝会議 共同取材シリーズ VOL.1

宣伝会議

写真左:月刊『宣伝会議』編集長 谷口 優(株式会社宣伝会議 執行役員・マーケティング研究室・室長 兼 編集長) 写真右:jekiオウンドメディア『恵比寿発、』編集長 五明 泉(コミュニケーション・プランニング局長)

宣伝会議マーケティング研究室とjekiは2016年、1年にわたり「前例が通用しない時代のアドパーソンの仕事のあり方、マインドセット」について、取材を通じて検証してきました。
そして今回、jekiオウンドメディア「恵比寿発、」のスタートにあわせて新たな共同取材シリーズを開始します。
シリーズに先立ち、「恵比寿発、」編集長五明泉が、月刊「宣伝会議」編集長谷口優氏に、今回のテーマ設定の背景や昨今の市場環境の変化、コミュニケーションの未来についてお話を伺いました。

五明:市場環境が目まぐるしく変化し、同カテゴリー内での競争が熾烈さを増すなか、コモディティ化からの脱却、ブランドの差別化を図ることは容易ではありません。そのなかにあっても、成長を遂げる・ヒットを生みだすその底流には何があるのか。これからこのシリーズではその一端を探るべく、宣伝会議マーケティング研究室とjekiが共同で、ヒットコンテンツ・躍進企業のキーマンの意識に流れる「顧客視点・顧客志向」を紐解いていきたいと思います。
今回はそのイントロダクションとして、多くの企業を取材されている谷口編集長が感じる企業各社の志向性の変化やマーケティングそのものの昨今の流れについてお聞きします。

谷口編集長は多くの企業の方々に取材されていますが、各社は顧客の捉え方、顧客との向き合い方に、どう取り組んでいると感じていますか?

谷口:デジタルを中心としたマーケティングの手法や手段が数多く登場しています。そういったものを活用してどれだけ成果を上げたのか、私たちのメディアも含め、そのハウトゥを伝えるセミナーやコンテンツがここ最近非常に増えているという印象があります。

けれども、そうした流れに少し変化が起きているように感じます。デジタルテクノロジーをはじめとする新しい手法も大事ではあるけれど、表層的な手段の話ではなく、よりマーケティングの本質的な議論に関心が集まっているように思います。

顧客視点に立ち、自社が提供できる価値、さらには社会における存在意義まで見つめ直さないと、今の時代の顧客満足は実現しえないのではないか。まさに企業のマーケティング活動のテーマが、経営の根幹に迫ってきていると感じます。

五明:流れが変わってきた要因は、どのあたりにあるとお考えですか?

谷口:最先端のテクノロジーや手法を取り入れるだけでは、消費者に伝わるような差異化の実現は難しいからだと思います。そもそも私たちの企業やブランドは社会に対して、何を語るべきか? そうした考えがあってこそ、テクノロジーや手法の先に独自性あるブランド体験を提供できるはず。

テクノロジーを活用し、顧客一人ひとりに合わせたワントゥワンのマーケティングを実現できるようになったとしても、そこで提供される体験が他社と同じようでは、どれだけマーケティングの実行部分を緻密にしたところで、ブランド価値の向上やブランドとお客さまの絆づくりにつながりづらいのではないか。あくまで仮説ですが、テクノロジーを使うようになったからこそ、ブランドそのものの価値が見直されているようにも思います。

五明:私たち広告会社や外部パートナーはクライアント企業のそのような変化にどのように対応していくべきだと思われますか。

谷口:外部のパートナーが、この局面でどのような価値を提供できるのか。これまで以上に難しくなっていると思います。なぜなら「その企業の存在意義は?」「そのブランドは、社会に対して何を語るべきなのか?」といった根源的価値に対する問いかけの答えは、その組織の中にいる人たちが、一番理解していると思うからです。

ただ、中にいるからこそ自分たちの本質的な価値に気づけなくなってしまっていることもあります。それを客観的な第三者の視点で見つけることに、外部パートナーに期待される役割があると思います。

五明:谷口編集長が取材されている中で成功事例にも接していらっしゃると思いますが、マーケティングの流れが変わりつつある今、成功している企業が取り組んでいることに何か共通した秘訣のようなものを感じることはありますか。

谷口:組織の中で新しいことにチャレンジするには、事前の計画策定や承認が欠かせませんし、きちんと計画を立ててからでないと動きたくないと思う方もいらっしゃると思います。でも成功している方たちは、「小さくてもよいので、まずは試してみることが大事」とおっしゃることが多いように感じています。
緻密な戦略や予測を立てても、その通りの結果になることは稀です。まずは試しにやってみて、小さくても成果をあげる。その成果をセットにして、より大きくチャレンジするための社内理解を得ていくというケースが多いようです。

あと、「決断力」も重要な要素。マーケティングや広告の仕事は、常に決断の連続です。特に部門を率いるリーダーは、正解のない世界で常に孤独な決断を迫られます。そこでも、楽な方や結果の予測がつきやすい方を選ばずに、勇気を持った決断をできるか。成功されている方にお話を伺うと、そういう場での決断力が素晴らしいな、と感じます。

五明:「スモールスタート」と「決断」がキーワードですね。

谷口:11月15日、16日に「宣伝会議サミット2017」というフォーラムがあるのですが、今年のテーマのひとつとして掲げているのが「decision」です。いろいろなケースを見ていると、マーケターの決断が企業としての成長に大きく貢献していると考えてのことです。決断できる人というのは、お客様と真摯に向き合い、お客様が真に求めていることを理解していると自信を持って言えるからこそ、決断ができるんだと思うんです。だから、決断にも顧客視点が大きく関わってきているのだと思います。

あと、決断を支えるもうひとつの要素として信念もあると思います。決断した時に、その判断が正解かどうかは決まっていないわけで、その決断を信じて突き進む執念が最終的に成果につながっていく。そして、その信じる力には、その人の個人的な興味・関心・嗜好性も関わってくるのではないでしょうか。個人としての「好き」という気持ちは、自分の決断を信じる、強力な力になるのではないか、と。

感覚的な話になってしまいますが、例えばアニメが大好きな人が企画したアニメとコラボレーションしたキャンペーンの企画は、仕事としてそれに取り組む人より成功する確率が高いのではないか。それは、個人としての「好き」の気持ちがうまく仕事に生きるから。私情を仕事の場に持ち込むことは、これまであまりよしとされてこなかったと思いますが、その人の好きなことや日常とブランドを絡めて企画を考えるということが、少しずつ許容され始めているような気がします。

五明:個の力を発揮するということですね。そして、decisionの背景に個の力がある。

谷口:プライベートが仕事の中に入ってくるみたいな、いい意味での公私混同も考えないと、マーケティングの仕事はできなくなっているんじゃないかと。そこに成功している企業のヒントがあるような気がします。

五明:これから、取材シリーズとして、ヒットを生み出している各企業の顧客志向・顧客視点について深めていきますが、どのあたりに注目して取材を進めていきましょうか。

谷口:ブランドの背後にどんな人がいるのか、というのが重要だと思うので、背後にいる人の考えや思いを炙り出したいですね。

おそらく成功しているブランドは、その背後にいるマーケターが一番のお客様で、だれよりもそのブランドを愛し、必要としている。そういうところから、読者の皆さんのブランディングやマーケティングのヒントになるポイントが見えてくるかもしれません。

※この対談は、2017年10月12日に行われました。

谷口 優
株式会社宣伝会議 執行役員・マーケティング研究室・室長 兼 月刊『宣伝会議』編集長。2000年株式会社宣伝会議入社。月刊『宣伝会議』編集部配属。2002年12月に月刊『環境ビジネス』副編集長就任。2007年10月より月刊『宣伝会議』編集長。雑誌事業やWebメディア「AdverTimes」など編集部門全体を統括している。2014年創立60周年の記念事業とし、日本におけるマーケティング活動の進化・発展への貢献を目指す組織とし、社内に「マーケティング研究室」を設立、室長に就任。同年11月、季刊『100万社のマーケティング』創刊。2015年1月より『宣伝会議』編集長と兼務。

jeki × 宣伝会議 共同取材シリーズ

昨今の市場環境やコミュニケーション環境の変化のなか、成長を遂げる・ヒットを生むその底流には何があるのか。その一端を探るべく、jekiは宣伝会議マーケティング研究室と一緒に、ヒットコンテンツ・躍進企業のキーマンの意識に流れる「顧客視点・顧客志向」を紐解いていきます。

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  • 五明 泉
    五明 泉 Move Design Lab チーフプロデューサー/ Move Design Lab代表/恵比寿発、編集長

    1991年jeki入社。営業局配属後、通信、精密機器、加工食品、菓子のAEを歴任、「ポケットモンスター」アニメ化プロジェクトにも参画。2014年営業局長を経て2016年よりコミュニケーション・プランニング局長。2017年よりMove Design Lab代表も務める。