発行30周年を迎えたビューカード。
ブランド力のさらなる向上をめざしたクリエイティブの狙いとは

クリエイティブ

写真左から
jeki企画制作本部 クリエイティブ局 第一部 クリエイティブディレクター 大野 健
㈱ビューカード 営業本部 顧客戦略部 担当部長 赤石 浩司 氏
㈱ビューカード 営業本部 顧客戦略部 副課長 近藤 佳代 氏
㈱ビューカード 営業本部 顧客戦略部 主任 鈴木 斐香 氏
㈱ビューカード 営業本部 顧客戦略部 課長 神戸 朋之 氏

2023年2月に発行30周年を迎えたクレジットカード「ビューカード」。俳優の眞島秀和さんと山田杏奈さんを起用した新たなブランド広告として、「そこは、ビューカードでしょ。」をキャッチコピーに、これまで「Suicaオートチャージ篇」「モバイルSuica定期券篇」ほか4篇のプロモーションを展開している。今回は、株式会社ビューカード 営業本部 顧客戦略部のメンバーと、クリエイティブ全般を担当したjeki企画制作本部の大野 健が、今回の施策における課題やクリエイティブの狙いについて語り合った。

ビューカードが30周年プロモーションに込めた想いとは

今回のプロモーションにおける課題はどのようなところにあったのでしょうか。

神戸:クレジットカード業界は非常に競争が激しくなっています。皆さん複数のカードを持たれているのが当たり前です。そのような環境で、ビューカードがメインカードやファーストカード、最初に想起いただくカードとなるよう認知拡大を目指しました。
「人生で最初に作るカードがメインカードになるのではないか」という仮説をたて、4年半ほど前からjekiさんと勉強会を開催して、どれくらいの年代から、どんなタイミングで接点を持てばいいのかなどを話し合ってきました。勉強会では、ビューカードとしてのブランディングに取り組むためにはどうすべきかといった議論も行っていました。

認知に課題があったとのことですが、当時の調査では、2022年のビューカードのブランド認知度は74.7%、興味関心度は43.4%、入会意向は26.7%と決して低い数字ではないと思います。

神戸:今回のプロモーションの大きな目的として設定したことは「指名検索の増加」です。そのためにはブランド認知だけでなく、存在感・影響力を高め、想起率を高める必要がありました。加えて、「認知のされ方」にも課題があると感じていました。

赤石:ビューカードは“JR東日本エリアの鉄道利用時に強いカードである”というイメージは浸透していると思っています。ただ、それ以外のシーンでもメリットがあるという認知はまだ弱いのが実情です。“鉄道に強く普段使いもできる便利なカード”であると訴求していくことが大事だと考えました。

「日常の中で、笑いが止まらなくなるビューカード」を表現したクリエイティブ

これらの課題感を踏まえて、クリエイティブではどのようなことを意識されたのでしょうか。

大野:最初にビューカードさんから頂いたお話では「JR東日本グループっぽくないものを作ってほしい」ということでした。赤石さんがおっしゃったように、ビューカードの「鉄道利用に強いカード」というイメージは強みではあるものの、今後の成長を求めて市中にブランドが出ていくときにはある種の足かせにもなります。
 「JR東日本グループっぽくない」という発言は、これまでの鉄道の世界にとどまりすぎていた表現を変えたいという意志だと思いました。今までのビューカードのブランドイメージを180度くつがえし、今の時代に合ったカードとはどんなものか、それを伝えるにはどのようなクリエイティブが良いのかを考えることが今回の課題だと捉えました。

最近は他社も若年層を意識したクリエイティブが増えているように思います。ビューカードもターゲットを意識したキャラクターの起用をしているというお話ですが、眞島秀和さん、山田杏奈さんの起用はどのような狙いがあったのでしょうか。

大野:今回に限らず、“ブランドと一緒に成長できるような人”というのがキャスティングの基本的な考え方です。既存のビューカード会員が多い30、40代には眞島さん、ファーストカードを意識した若年層については山田さんと、それぞれターゲットを意識しました。また起用にあたっては、これからの伸び代がある人を起用したいと考えていました。そういう点でも、ネクストブレイク俳優としてすでに存在感のあった山田さんをキャスティングできたのは幸運でした。
今回の表現としても、高笑いをする場面など、少し尖ったところがあったので、そうした演出をしても嫌味がなく、許されるお二人だと思います。単に知名度の高さだけではなく、誠実さや爽やかさが求められるのではないか。加えて、ビューカードの実用性も考えると、お二人のような実力派の俳優が合っていると考えました。

鈴木:眞島さんは「ガイアの夜明け」のナレーションを担当されていてビジネス的なイメージもありつつ、「おっさんずラブ」で見せたコミカルさもお持ちです。その点でも、機能面とイメージ向上の両方を訴求したいという今回の期待を実現できそうだと感じました。

クリエイティブ面では、機能的な訴求と感情的な訴求がありました。両立させるために工夫や意識したことはなんでしょうか。CMでは「ビューカード」「ポイント」という言葉を繰り返して強調しています。検索窓を物理的に表現して叩くシーンも印象的です。

大野:ブランド名を連呼したのはシンプルに想起率を高めるためです。今回のキャッチコピーである「そこは、ビューカードでしょ。」も、まずは名前を売ることが基本だと思いました。「ポイント」や「おトク」という言葉や「還元率のパーセンテージ」など、機能的な訴求はもちろん重視しましたが、いちばん描きたかったのは「ビューカードを使えば、日常生活で笑いが止まらなくなる」という感情的な価値です。毎日同じように改札を通っていても、ビューカードを使う人はこっそりトクしている。その瞬間のユーザーならではの「喜び」や「優越感」を強調することがブランドへの共感や支持につながると考えました。

赤石:コミカルな表現で「ポイント」「ゲット」と繰り返されるスピード感も大事な要素になっていると思います。完成したCMを見たら、最初は少し速すぎるのではないかと感じていましたが、幅広い年代層に見ていただくには、この位のスピード感が丁度よいと思いました。6秒や15秒の短い時間でメッセージを伝えるためにはコミカルな表現でインパクトを与えて、スピード感をもって情報を訴求する、その相乗効果が期待できる、いいCMになったと思っています。

大野:コミカルな表現に関しては、今回起用した朝日恵里監督のセンスと遊び心による部分も大きいです。眞島さん・山田さんの高笑いも、企画段階ではあそこまで派手なものではなかった。検索窓を叩くシーンも、派手に叩くのはどうかという声もありましたが、強く叩くことに意味があったと思っています。今回の目的を踏まえると、広告を見て「面白いね」で終わってしまっては意味がない。「検索してほしい」というのが企業の本音です。その本音を包み隠さず、物語の中にいるはずの役者がバーンと検索窓を叩く。過剰なまでの高笑いもそうですが、そんな面白さが、今どきの生活者に刺さったのではないかと思います。
そしてこのようなチャレンジングで遊び心のある表現を実現できたのは、ビューカードさんが「まじめな遊び心」を志向していたから。効果のある広告が作れるかどうかは、半分以上は広告主の意志にあると思っています。ブランドの大きな方向性を明確に打ち出していただいた上で、意図のあるさまざまなクリエイティブを考察させてもらえたことが、赤石さんが「いいCMだ」と言ってくださった結果にもつながっているのではないでしょうか。

眞島さんのドラマ『#居酒屋新幹線2』や山田さんの映画『ゴールデンカムイ』とのタイアップ中づり広告もありました。お二人は駅構内のアナウンスもされていて、拡張性のあるプロモーションになっていますね。

©野田サトル/集英社 ©2024 映画「ゴールデンカムイ」製作委員会

©「#居酒屋新幹線2」製作委員会・MBS

近藤:ドラマや映画とのタイアップでは、交通広告やシネアド(映画館で上映前に放映される広告)を中心に展開しましたが、SNSでの反響も大きく、手応えを感じました。通常の広告とは異なる層を開拓でき、ブランド認知の裾野を広げることができたと思っています。

大野:駅構内アナウンスについては、眞島さんの声が良い、いわゆる「イケボ」だということでスタートしました。

近藤:音声素材はJR東日本の全駅に渡していて、使用するかどうかは、いつ流すかも含めて各駅の駅長が判断しています。新宿駅や池袋駅、上野駅などでは多く流れているようです。

大野:ターミナル駅は非常に多くの人が利用するので、相当な数の人に届くのではないでしょうか。普段使う駅の案内放送がいつもと違う人の声、有名人の声で聞こえてくるというのはアクシデント的な楽しさもある。今回やってみて面白いなと思っていたら、ほかの案件でもニーズが増えているようです。

入会者数でもクリエイティブの効果を実感

キャンペーンの反響や入会数について、求めていた成果は得られましたか。

鈴木:テレビCM以外にも車内広告、街頭ビジョンやWeb広告、SNSでも展開しました。今回はシリーズ物になっていたこともあり、新しい作品が公開されるとSNSを中心に反応があり、皆さんに楽しんで見ていただいているのだなと感じました。こうした反応が得られたのは、jekiさんのクリエイティブのおかげだと思います。

赤石:入会という点でも、通常の新規入会キャンペーンとの相乗効果もあり、順調に推移しています。やはり今回のように明確な目的を持って広告展開をすると、しっかり反応が得られるのだなと実感しています。

大野:今回かなり「面白さ」に振りきった広告を作らせていただきましたが、すべてはビューカードさんの明確なご意志と寛大なお心のおかげです。こちらこそ、ありがとうございました。クリエイティブの仕事は、企業や商品を「好き」にさせることだと思っています。広告は世の中に向けた、貴重なプロポーズの機会です。「つまらない人」と思わせてしまっては、大きな損失です。今後も「面白い」広告作りに努めてまいりますので、引き続きよろしくお願い申し上げます。

大野 健
jeki企画制作本部 クリエイティブ局 第一部 クリエイティブディレクター
1992年jeki入社、クリエイティブ局に配属。
「大人の休日倶楽部」「新幹線開業広告」「デスティネーションキャンペーン」「Suica電子マネー」「えきねっと」「ビューカード」「LUMINE」など、JR東日本やグループを中心に数々のキャンペーンを手掛ける。
東京コピーライターズクラブ会員。

jeki more

jekiのさまざまな取り組みを通じて、ビジネスのヒントをご紹介します。