デジタル軸の広告コミュニケーション設計のポイントとは

キクコト VOL.3

写真:ジェイアール東日本企画 クリエイティブ局 アートディレクター 武山範洋

2000年代以降、デジタルの台頭により、広告ビジネスを取り巻く環境は大きく変化し、新型コロナウイルスの感染拡大は、その動きを加速化させただけでなく、コミュニケーションの様式までも一変させることとなりました。
ジェイアール東日本企画(jeki)は、このような急激な環境変化を契機とし、2021年5月に新サービス「ジェイアール東日本企画オンライン相談室 キクコト」をローンチし、オンラインのプラットフォームで広告主企業の相談に応じ、課題解決に向けた提案まで無料で対応する体制を整えました。

今回は、JR東日本「JR SKISKI」「ようこそ。東北LIVE」、パーソルキャリア「doda」など数多くの広告制作実績を持ち、「キクコト」に専門領域のスタッフとして名を連ねる武山範洋と、「キクコト」専属相談パートナーの鳥飼悠人が、事例を紐解きながら、デジタル軸の広告コミュニケーション施策設計のポイントについて語り合い、「キクコト」の提供できる価値を探りました。

変化が速く多様化する消費者に“刺さる”広告のために

鳥飼:武山さんは、「JR SKISKI」をはじめ、テレビCMだけでなくデジタルも含めた広告を多く手がけられてきました。その中で、それぞれのメディアの変化を実感されていると思います。

武山:ここ数年、一番感じているのは「変化の速さ」です。WebやSNSで接触したことが、後追いでテレビで紹介されるという現象は、今や当たり前になっています。例えば以前はテレビCMとほぼ同じ素材でYouTube用動画とWeb用バナーに展開しても効果が出ていましたが、今はWebのパーソナライズ化が進んでいるので、その変化を察知してクリエイティブをつくることが増えました。

鳥飼:実際、生活者としての自分を振り返っても、SNSなどから新しい情報を得ることが多いです。

武山:「情報はSNSやWebから」という人が多数派ですよね。そして、かつてはF1、M1のように属性で分け、ペルソナをつくり、広告コミュニケーションのターゲットを設定していましたが、個人の価値観やライフスタイルの多様化に伴い、そうしたペルソナも゛架空の人”となりつつあります。特にZ世代は趣味や仮想人格が多様化しすぎて捉えようがありません。

もちろん、そういった状況は、広告業界にも大きな影響を及ぼしています。「検索した内容」や「動画の視聴有無」など、ターゲットの行動に合わせた配信もできるWeb広告は、施策設計次第で、効率的にコンバージョンが得られますし、これからさらに存在感を増していくでしょう。

鳥飼:サードパーティCookie廃止の動きもあり、まったく同じことはできなくなりつつありますが、Web広告の勢いはこの先も伸びていくと、私も思っています。ちなみに、武山さんがデジタル軸の広告コミュニケーション施策の設計において、特に重視しているポイントはなんでしょうか?

武山:ターゲティングもそうですが、広告の目的を媒体ごとに明確に絞って企画することを重視しています。ブランド名やサービスを認知させたい、Webサイトに誘導したい、コンバージョンをとりたいというように、「何のために」が明確にならないと、メディアの使い分け・クリエイティブの出し分けといったプランを作ること自体が難しいので。

また、モバイル動画のクリエイティブの制作において意識しているのは、「普遍的な実感や共感を動画の世界観に盛り込むこと」です。スマホでは「見る・見ない」を1秒で判断するといわれる中で、「自分向きの広告だ」と思ってもらえるように、ビジュアルで伝えるべき情報量はあらためて強く意識しています。いまは可視化される情報量が多いので、言わなくても伝わるかどうかを判断するのは重要だと思います。

このスキルはデータや後追いの分析ではなく、生活やメディア接触などのスピーディな変化にどれくらい敏感でいられるかで鍛えられるものかもしれません。くわえて世代ごとの多角的な視点も必要ですね。情報を処理できるスピードは世代によって違いますし。
広告に関わる者にとって、情報や事象、ターゲットインサイトへの感度や変化への気づきが、以前よりシビアに求められる時代なんじゃないかと思います。

空気や気分を捉え、普遍的な共感や表現を盛り込む

鳥飼:流行を取り込むのは難しく、目的やターゲットを絞っても、感度が合わないとターゲットが感じればスキップされる…広告がどんどんシビアになる中で、“ターゲットに刺さる”ためには、プランナーもクリエイターも感度を高める必要があるということですね。

武山:そう思います。たとえば「JR SKISKI」では“青春や仲間”がテーマですが、タレントもアーティストもネクストブレイクを基準に起用し、Z世代のターゲットが話題にしやすい設計になっています。
話題になるためには「周りの誰かに話したくなる工夫」がさらに重要で、ヤンチャなティザーポスター、ヒロインのお披露目となる寝ころびポスター、記者発表、すべての要素が入ったテレビCMなど媒体ごとで意図的に情報量の制限をするなど明確に計算しています。
言の葉にのせて何となくみんなが知っているという空気をつくり出すと、モバイルでの動画視聴も飛躍的に高まるので、オフラインとオンラインを意識して情報や表現を切り分けることは重要だと思います。
言葉にすれば簡単ですが、 “コレ話したくなるかも”というクリエイターの感性に頼る比重が大きいなと思っています。僕はZ世代の自分の子と仲が良いので、その感覚を自然に持てるので助かっていますね。

2021年 J R S K I S K I キャンペーンは、本田翼を8年ぶりに再起用した。

鳥飼:空気づくりまで意識して戦略的に作り込む必要があるということでしょうか。

武山:当たり前のことで今更ですが、空気を捉えること、共感のポイントを意識することは大切だと思います。たとえば、今配信されている「ようこそ。東北LIVE」のCMもそこを強く意識しました。

鳥飼:あれはカット割りもかっこよくて、だんだん盛り上がってくる感じも、なんだか胸にぐっときました。

武山:東北6県の人たちの生活の音が一つの協奏曲のようになり、みんなを盛り上げる応援歌になるーーとロジックではそう表現しているのですが、「気持ちの熱量」を感じてもらえたら成功だと思っていました。10年前の震災から元気になった東北の人の姿は、コロナ禍においては強いエールとして伝わるんだろうなと。反応や状況はある程度まで予測しながら企画していますね。音の企画にしたり、子供や動物を登場させるなど、世相が悪いときに誰もが素直に受け取りやすい表現を組み込みましたし、どうしたら伝わりやすいのかというテクニカルな側面は大事だと思います。

鳥飼:「JR SKISKI」のモバイル用動画も、冒頭の5秒に伝えたいことが盛り込まれて、画面がスマホの「カメラモード」のデザインになっていて、つい見てしまいます。スマホは自分の延長のように感じるからでしょうか。可読性やなめらかさなども大切ですね。

武山:そうした細かな工夫がモバイルでのクリエイティブには重要なんです。モバイルでは「自分に関係がありそう」「これ何だろう?」と思わせることがより大事になってくる。繰り返しになりますが、今は見たいものしか見ないという視聴態度ですから、説明的じゃなくカンタンにパッと伝わることは何より重要だと思います。

ミドルファネルで、クリエイティブを出し分ける

鳥飼:もう一つ、Web広告の特徴である、「クリエイティブの出し分け」について、具体的にどのような施策設計をされてきたか、「JR SKISKI」の事例でご説明いただけますか?

武山:Webでのターゲットの共感シーンは、ストラテジック・プランナーの分析のもと、男性は「仲間とワイワイ」「下手でも楽しむ」「ストレス発散」の3つ、女性は「ゲレンデ飯」「異性との出会い」「仲間とワイワイ」の3つに切り分けました。うち1つは男女で重複していますが、自分と似た属性が出ていることが重要なので男女別々に作成しました。これをニーズの大きいところから配信し、スキップや視聴されたら他の動画が当たっていくようになっています。バナーについてもインサイトごとに切り分けしたものと、商品訴求で別々に運用するなど設計しています。

鳥飼:ここまで細かく動画を出し分けているんですね。

武山:テレビCMが「認知を取る」役割だとすると、Web動画施策は「理解度や好意度を引き上げる」役割です。ミドルファネルといわれていますが、多様なインサイトをクリエイティブで出し分けて共感と理解を深めるのがポイントになるので、データの整合性から考えるマーケ比重がやや高いクリエイティブですね。悩ましいのは、予算を考えつつ効率的なクリエイティブの種類や企画を考えることかもしれないです。

「キクコト」はどんな価値を提供できるのか

鳥飼:2021年5月に新サービス「ジェイアール東日本企画オンライン相談室 キクコト」をローンチし、私は専属相談パートナーとして参加し、武山さんは専門スタッフとして名を連ねています。
「キクコト」では、これまでジェイアール東日本企画として接点がなかったような小中規模会社との取引機会も増えていくと考えていますが、今お話しいただいているような知見をぜひ提供していきたいですね。
例えば、「テレビCMを行うだけの大きなマーケティング予算を持たない広告主企業に、Web媒体を軸にしたミドルファネル施策に特化したコミュニケーションを提案する」とか。

武山:そうですね。ご予算に合わせてアイデアや効率的な方法を考えるのが我々クリエイターでもありますし、「Web媒体を軸にした動画コミュニケーション」には知見があるので、ぜひそういった提案の機会があればと思います。

また、Web広告は広告主企業が直接購入することも多いですし、媒体販売チャネルとしての広告会社の価値は正直低下していくと思っています。だからこそ、「何を誰にどうやって伝えるか」という、ターゲット分析・クリエイティブ設計・メディアプランニングの一気通貫の戦略構築力、jekiの総合力で本質的な課題解決のアイデアを提供すべきだと、あらためて感じています。初めてお会いする広告主企業にご提案するチャンスがあるのは楽しみです。

鳥飼:私も専属相談パートナーとしてクライアントに伴走し、ビジネスの成長に貢献させていただくのが心底楽しみです。本日はありがとうございました。

<了>

武山範洋
ジェイアール東日本企画 クリエイティブ局 アートディレクター
2007年(株)ジェイアール東日本企画入社、クリエイティブ局に配属。
アートディレクター・プランナーとして数々のキャンペーンを担当。

■主な仕事
JR東日本「JR SKISKI」「ようこそ。東北LIVE」「タッチでGo!新幹線」「秋田新幹線こまちデビュー」「北陸新幹線金沢駅開業」「次の当たり前をつくろう。」、パーソルキャリア「doda」、Osaka Metro「民営化・ブランド広告」、映画「天気の子」「君の名は。」タイアップ広告など。

APA(日本広告写真家協会)講師、広告業界誌のセレクターなどを務め、取材掲載も多数。

キクコト

jekiオンライン相談室「キクコト」の専属相談パートナーが、オンラインだからこそ提供できる新たな価値を語ります。