ブランドとの接点で生まれる「ときめき」をとらえ、共感することで成長を続ける「BRUNO」
―星野智則氏(イデアインターナショナル)×若松数(ジェイアール東日本企画)―

jeki × 宣伝会議 共同取材シリーズ VOL.15

左:イデアインターナショナル 取締役マーケティング&セールス本部長 星野智則氏
右:ジェイアール東日本企画 コミュニケーション・プランニング局 プランニング第一部長 エグゼクティブ・ストラテジック・ディレクター 若松数

イデアインターナショナルのオリジナルブランド「BRUNO」。今やブランドを代表する商品となったホットプレートがソーシャルメディアで話題となり、認知を獲得した。家電の選択肢のなかで機能以外の付加価値に着目し、消費者のライフスタイルによりそうブランドとして、存在感を強めている。「BRUNO」ブランドを運営するイデアインターナショナルの星野智則氏に聞く。

コモディティ化が進む家電ジャンル 機能ではなく共感で差別化

若松:ちょうど今朝、地元の駅で高校生が「BRUNO」のポータブルミニファンを使っているのを見ました。幅広い世代に受け入れられている「BRUNO」ブランドですが、どのように生まれ、成長してきたのでしょうか。

星野:「BRUNO」は2012年9月の立ち上げで、8周年目に入りました。大人が楽しめるようなライフスタイルブランドとして、インテリア雑貨やシーズン家電、キッチン家電等を手掛けています。ライフスタイル領域では商品構成上、リビング・ダイニングジャンルが強くなるので、その流れでホットプレートも誕生しました。このホットプレートがInstagramなどで話題となり、ブランド自体の認知も拡大していきました。
 家電をはじめ、今は多くの商品ジャンルでコモディティ化が進んでおり、機能的な面での差別化は難しい。そこで「BRUNO」では、店頭での体験や商品との出会いでいかにお客さまにときめきを感じてもらえるか、共感を与えることができるかといった精神的な部分へのアプローチを重視してきました。
 Instagramと合わせて、ギフト需要の取り込みもブランドの推進力となりました。キッチン家電としてのアプローチに固執せず、近年ホットプレートを結婚式のお祝いに送るという動きに着目し、ギフトの選択肢として認知拡大できたことが新たなメインストリームを獲得した、要因の一つだと考えています。

BRUNOのコンパクトホットプレート(手前2つ)とホットプレート グランデサイズ(奥)。

若松:私も初めて「BRUNO」のホットプレートを知ったのはInstagramでした。SNSでの仕掛けは意識的に行われたのでしょうか。

星野:ブランドとInstagramという媒体の相性が良さそうだというのは理解していましたが、お客さまが自発的に広めてくださったと考えています。
私たちはそこまで広告投資をしていないので、Instagramは主力媒体として位置付けています。外部企業の協力も得ながらInstagramの運用方法を検証しました。ハッシュタグの選定方法を見直し、コアファンとライトファンに対して投稿のバランスを意識しながら運用しています。
 また、今はUGC(User Generated Contents)も重視されています。私たちもお客さまが発信する情報を認識して、フォローしていく活動を継続的に行っています。こうした動きはお客さまにも喜んでもらっていて、メーカーと消費者の距離の近さをうまく表現できているのではないかと感じています。
 Instagramではお客さまが欲しいと思うホットプレートの色を投票してもらい、一番人気の色をメーカーとして製造しますというキャンペーンも行いました。実施前は5000件くらい応募があればいいかなと思っていたのですが、実際は3万件近い応募があり、カラーバリエーションのニーズとInstagramの影響力の大きさに驚くことになりました。単純にハッシュタグ付きの投稿でプレゼントというものではなく、キャンペーンを起点にお客さまと盛り上がるような内容を意識しています。

直営店はギフト需要の取り込み強化 販路によって売上構成を変える

若松:ギフト需要がブランドの推進力になったというお話もありましたが、実際、売上の構成でもギフトの比重は大きいのでしょうか。

星野:自宅用とギフトニーズの売上構成は販路によって異なります。卸先とのカニバリゼーションを避けるため、直営店舗にはギフト目的の購入に付加価値をつけています。ラッピングのブライダル用スリーブは直営店だけの仕様にしたり、ホットプレートのノブにイニシャルなどの刻印を行ったり、購入目的で住み分けができるようにしました。その結果、直営店はギフトの比率が大きく向上しました。

若松:メーカーの皆さまの多くが、直営店と卸売先の販売バランスにお悩みかと思います。同じ商品でも、利用シーンの違いですみ分けができるというのは、お互いがハッピーになれる大変面白いお考えですね。

星野:顧客層の分析もしていて、212KITCHENさんのようなキッチン用品の専門店は特にリピーター顧客が多いことから、先方の販促担当者とも話をしながら、リピーター向けの企画も展開しました。BRUNOと212KITCHEN、雑誌「Mart(マート)」と3社でタイアップした企画では、ホットプレートをすでに持っている顧客向けに次に購入しそうなオプションプレートの良さを訴求した企画を行いました。

店頭でのコミュニケーションに発見 現場の空気を知らずにプロモーション施策はつくれない

若松:星野さんは取締役でいらっしゃいますが、店舗にも頻繁に顔を出されているそうですね。

星野:スタッフと雑談しながら勉強させてもらっている感じです。クリスマスシーズンや年始などは、私たち役員も販売応援に入っています。お客さまとのコミュニケーションの中に発見がある。やはり現場の意見や空気感を知っておかないとプロモーション施策も考えられませんし、善し悪しの判断もできないと思います。
 お客さまの話からどれだけ情報を受け取れるかが必要。私が販売応援に入るときも、来店の目的などを理解しながら、お客様の実現したいライフスタイルを想像して商品の楽しみ方を提案して共感を得ていく。機能や価格よりもお客さまと商品の間にどのような楽しみ方があればより豊かになるのか、それをどう伝えれば響くのかを考えて話をしています。

若松:先日私も店舗に伺いましたが、商品を見ながら自宅で使うところを一つ一つ想像して、ついつい滞在時間が長くなってしまいました。売るよりもまず、お客さまにイメージを膨らませていただくというところにBRUNOの成功のポイントがありそうですね。

星野:プロモーションでも同じだと思います。商品の認知フェーズによってもアプローチ方法は変わっていく。ホットプレートは使い方を知らない人はいませんが、クッションテーブルという商品は、そもそも使い方がわからない。使い方がわからないのに価格を伝えても意味がない。まずは使い方の説明が必要で、そこでお客さまの普段の生活に応じた提案ができて、いいと思ってもらってはじめて、価格の話になる。商品の認知や理解といった状況、ターゲットに対してどのような存在なのかを正しく判断できてはじめて、正しくプロモーションができる。ここはセールスとプロモーションに通じるところがあると思います。

「BRUNO」ブランドでマーケティング調査 ときめきの価値をポイント化

若松:店頭で商品と出会ったときに「ときめき」を感じてもらうことが大事とおっしゃっていましたが、その「ときめき」を指標化されているという話も聞いています。

星野:会社として公式に指標として何かに活用しているというのは少し言い過ぎかもしれません。「BRUNO」のブランドでマーケティング調査をしたときに「ときめき価値」に着目して、その価値をポイント化したのは事実です。商品との出会いから比較検討、購入、使用してその体験をシェアするといった行動のフェーズごとにときめきの価値がどう変化していくのか、世代別に調べました。
 結果として、出会いのフェーズではどの世代もポイントが高くなっていたのですが、購入後に使用して体験をシェアするというフェーズでは20〜30代のポイントは高く、40〜50代は低かった。若い世代は特に、ものを使って、友達との話題にするという行動にも評価のポイントがあると。おそらくInstagramは、それをより広い世界で表現する「場」なのだろうと考えています。
 今、10月初旬のローンチ予定でファンサイトを制作しています。そこではInstagramとも連携してお客さま同士がホットプレートなどのBRUNO製品を楽しむ様子を共有、表現できる場にすることを目指しています。

若松:なるほど、「ときめき」を共有して増幅する、プラットフォームのようなイメージですね。

星野:その表現はすごく良いですね。ときめきの熱量を高める、まさにそういうことです。店舗のスタッフもお客さまと共感できる人は売上も伸びる。そのためには実際に商品に触れないといけないと考えています。
 プロモーションでもインスタライブをはじめていて、直営店スタッフとBRUNOアンバサダーで連携して、これまでに2回公開しています。そこに参加したいという直営店スタッフも増えてきたことは嬉しく思っています。社内でも自社商品をスタッフが楽しく体験する機会を設けたりしています。そこで良いと思えば、店頭の接客で熱量としてお客さまにも伝わる。「モノを売る」という感覚ではもう売れない時代だと思いますし、良いと思うものに一緒に共感して、熱量を高められることが重要なのではないかと思っています。

ニューノーマルの時代の消費者変化 これからの店舗に求められる価値とは?

若松:現在は新型コロナウイルスの影響による大きな環境の変化の中にありますが、生活者の気持ちの変化を感じることはおありですか。

星野:SNSを見ていても以前は特別な日にホットプレートを使ったパーテイー系のレシピの投稿が多かったのですが、これまでの20〜30代に加えて、小さい子供がいるようなファミリー世帯の投稿が増えてきております。内容もレシピだけでの表現ではなく、ホットプレートを囲んでみんなが楽しそうにしているような、日常の生活シーンの投稿が増えています。
 こうした傾向をとらえて、私たちもこの夏、クックパッドさんとコラボレーションして夏祭りを家で楽しむBRUNO製品を使った「おうち縁日」企画や、コロナ禍でも家中を楽しむステイホームの企画をSNSで実施しファンの共感が得られました。
 ビジネス上はマイナス、プラスの両面があります。リアルの店舗に関しては、“なんとなくブラブラしながらお店に来る”という衝動買い需要は減っています。買い物は目的来店へとシフトしているので、そこはマイナスだと思います。
 逆にECは、BRUNO製品自体が指名買いのフェーズに入っているので、市場拡大と同時に売上が増える構図になっています。家ナカの需要が増えた分、刈り取りの機能をECが果たして、プラスになっている面はあります。近年はARやVRの普及から、ECがリアルに近づいていく可能性はある。今後もECは順当に伸びていくと思います。

若松:ニューノーマルで、身近な人と過ごす“時間”がより重視されるようになったように感じますね。今後ECが成長する中、リアル店舗の価値はどう変化していくとお考えですか。

星野:リアルの店舗は常設という考え方だけではなく、催事や期間限定のような形で鮮度を保っていくことも必要なのではないかと考えています。期間限定で全国を巡回すれば、メディア的な機能もありますし、そこでお客さまが体験し、認知を獲得するような役割も果たすことができる。「ときめき」にも通じますが、最初に強いインプレッションを与えることができるのはリアルの優れているところ。常設で売上をというよりもメディア的な価値がリアル店舗の重要性として増していくと思っています。
調査では若年層の方がリアル店舗を好むという傾向も出ています。今の若者にとっては、買い物に行く場所というだけではなく、友達との話題になるスポットとしてとらえている。もはや世代によって「店舗」という場所の概念は違うのだなと感じました。
 もともとBRUNOのブランド自体、ロフトさんやハンズさんなどの卸先の店頭、エンドプロモーションをきっかけに「おしゃれな家電」という認知を獲得した経緯もあります。店舗のメディア的な価値は以前から意識していましたが、これからは、お客さまが思わず来店して、熱量を肌で感じてブランドへの興味を抱くと同時に、写真を撮って拡散したくなるような店舗づくりを目指したいと考えています。

【取材を終えて】
新型コロナ感染拡大で店頭からマスクなどが消え、「うばい合えば足らぬ わけ合えばあまる」ということばに注目が集まりました。今回、星野さんから「日本ってマーケットに限りがあるから、商品同士、販路同士がカニバらないようにどうしたらいいかなと考えている」とお聞きして、このことばを思い出しました。これからの時代に元気であり続ける企業は、自社だけでなく、自社に関わるすべての人の幸せを考えられる企業なのだろうと感じます。
星野さんが「自分たちが楽しくないと、お客様も楽しくない」と仰っていたように、ブランドと顧客が一緒に楽しみ、共感できる関係性は理想的だと思いました。
皆さんもぜひBRUNOのホットプレートで、おうち時間に「ときめき」をプラスしてみてはいかがでしょうか。(若松)

上記ライター若松 数
(エグゼクティブ プランニング ディレクター)の記事

jeki × 宣伝会議 共同取材シリーズ

昨今の市場環境やコミュニケーション環境の変化のなか、成長を遂げる・ヒットを生むその底流には何があるのか。その一端を探るべく、jekiは宣伝会議マーケティング研究室と一緒に、ヒットコンテンツ・躍進企業のキーマンの意識に流れる「顧客視点・顧客志向」を紐解いていきます。

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  • 若松 数
    若松 数 コミュニケーション・プランニング局 部長/エグゼクティブ プランニング ディレクター

    メーカーでのマーケティング経験を積んだ後、2007年jeki入社。ストラテジック・プランナーとして、化粧品、流通、テーマパークなどのクライアントを担当。生活者・広告主・プランナーの視点を行き来して、日々課題に向き合う。