
コンピュータゲームの腕前を競い合う「eスポーツ:エレクトロニック・スポーツ」。今や、全世界で競技人口は1億とも言われ、市場規模は数億ドルを優に超えています。2022年アジア競技大会の正式種目に決定したことをはじめ、その盛り上がりはとどまることを知りません。また、日本でも国体の文化プログラムに選ばれるなど、大きな進展を見せています。
今回の中之島サロンは前編に引き続き、大阪を拠点に活動するプロゲームチーム「CYCLOPS athlete gaming」の運営をはじめ、eスポーツに関わる数々の事業を手掛けておられる伊草氏と、女性二人目のプロゲーマーにして、世界を舞台に活躍する鉄拳プレイヤーのたぬかな氏をお招きし、ジェイアール東日本企画関西支社・有馬、宮﨑が、経営者とプロゲーマーそれぞれの立場から見えるeスポーツの今とこれからについて話を伺いました。
後編の今回は、CYCLOPS athlete gamingが「大阪」を拠点にするその理由、伊草氏とたぬかな氏の今後の展望などについてご紹介します。 <前篇はこちら>
東京ではなく、なぜ大阪なのか?
有馬:東京出身の伊草社長が、大阪を拠点にチームを運営しておられる理由について教えていただけますか?
伊草:私が経営する会社に共通した経営理念は「日本の若者を元気にする」なんです。そもそもここ20年くらい、日本の若者に元気が無い、つまり自己主張しないし、夢や野望みたいなものを持っていない人が多いと感じてきました。そこで若者が熱狂するコンテンツとしてゲーム対戦=eスポーツが刺さったわけです。それから、海外視察に行ったり、詳しい人たちと会ったりしながら、ひと通り市場の成長性などを学びました。まずは若者の憧れの存在を創りたいという想いからeスポーツチームの創設に至りました。何より日本においてもゲームをやっている人口が非常に多いのも魅力的でした。
宮﨑:みんなスマホでゲームをしていますしね。
伊草:そうです。今、「ゲームは1日1時間にしておきなさい」って子どもに言っている親世代だって、子どもの頃にファミコンをやっていたじゃないですか。それを考えると、これは事業性があるなって。そして、ご質問にあった「東京生まれ、東京育ちの私が、なんで大阪なんですか?」というところについては、ここ20年、若者に元気がないのと同じくらい、東京一極集中というのが気に入らなかったんです。これが、絶対に日本をダメにしていると思っているのがひとつ。それと、20年ぐらい前ですが、ベンチャー支援の仕事で全国を回っていた時、大阪のことがすごく好きになったんですけど、大阪にいると、東京のことばかりに意識がいってしまう風潮があるなと感じたんですよね。福岡や札幌だとまったくそんなことがなくて、福岡からいきなりアジアに出ていくんですよ。それが、ずっと気になっていて、大好きなこの大阪をもっと元気にして、東京の一極集中を打破しようと考えました。そこに加えて、大阪はサブカルチャー的なものが流行りやすい土壌があると思うんですよ。世の中の面白いものの80%以上が、大阪から出ているって、言う人もいるぐらい。確かにそうだよなって。

宮﨑:大阪では、文化が生まれやすいということですか?
伊草:あくまでもサブカルチャー的なものかもしれませんが、お笑いだって何だって、発信拠点になっていることを大阪の人に誇りに思ってもらいたいなと思います。
宮﨑:大阪にサブカルチャーが育ちやすい特性があるのは、なぜだとお考えですか?
伊草:大阪の人って、面白いと思ったものは、「おもろい!」ってシンプルに言ってくれるじゃないですか。それが、大きいと思いますよ。
宮﨑:それは私も日頃から感じています。大阪のクライアントさんは、「これおもろいから、社長に言っとくわ!」って。スピード感がありますよね。
伊草:eスポーツのイベントをやるにしても、大阪だったら、すぐに「ええね!」ってみんな同じ方向を向いてくれますから。大阪はすごく大きな街ですし、良い土壌があるので、東京に引け目を感じるのではなくて、名古屋をライバル視するんじゃなくて、大阪独自で「おもろいもの」を作って世界へ発信することをやっていきたいです。

全都道府県にプロゲーマーチームを。
有馬:伊草社長はeスポーツに関わる企業を経営されている立場として、たぬかなさんはプロゲーマーとして、どのようなビジョンをお持ちですか。
たぬかな:私は、もともと安定した仕事に就いていたので、プロゲーマーになることを親にもすごく反対されていて、でも、思い切ってこの世界に入りました。それもあって、お金を稼ぎたいという思いが強いんですよ。
有馬:安定した生活から、プロゲーマーへの道に進んだからですよね。
たぬかな:はい。CYCLOPS はお給料をいただけるので、今は安定した生活を送らせてもらっています。それから、メディアにもたくさん出していただくことで、最近になって、ようやく親も応援してくれるようになりました。でも、やっぱり、もっともっとたくさん稼いで、試合にも勝って、「私もここまで来たよ」ってみんなに憧れてもらえるようになりたいですね。それが大きな目標のひとつです。

宮﨑:憧れの存在になるって、分かりやすく言えば、そういうことですよね。どれだけ稼いでいるかとか、実績とか。ちなみに、プロゲーマーに賞金以外の給料が出るのは業界でも珍しいですよね?
たぬかな:すっごく稀です。
伊草:私は、選手にプロゲーマーをキャリアのひとつとして、しっかりと認識させる必要があると思っています。そのために、給料も渡航費も出しますし、メディアへの出演についても会社がマネジメントします。それから、例えばプロを引退しても、私たちはゲームの開発以外はすべてやっている会社なので、仕事はまだまだあります。そうやって、会社としても選手のキャリアをちゃんと作っていくという前提がありますから、固定給も用意しているという考え方です。
たぬかな:めっちゃ良い会社だと思っています。
一同:(笑)
たぬかな:それから、もうひとつは、これはまさに夢のような話なんですけど、全都道府県にプロゲームチームが生まれれば、なんて思っています。最近、徳島で、eスポーツを絡めたイベントがいろいろと開催されています。私も、何度も出していただいていて、少しずつですが盛り上がり出していると感じています。そこで、徳島を起点にして、その隣の香川や高知も始めて、それから四国が盛り上がってるんだったら、うちの県もやってみよう、って他の地域にも波及していくと。

有馬:地方からどんどん、全国に広がっていくパターンですね。
たぬかな:そうです。どんどんeスポーツが活性化して、将来的には地域ごとにチームが生まれて甲子園のようになればうれしいです。きっと、自分の出身地のチームは誰だって応援すると思うんですよ。それを私は大切だと考えていて、eスポーツに批判的な人たちの考えも変わるんじゃないかって。

有馬:本当に甲子園のようになれば、ゲームがいわゆる「文化」として認められることにつながりますしね。そして、業界全体の底上げを促していく、と。
宮﨑:今、地方で活動しているチームは何団体ぐらいあるんですか?
伊草:地域に根差したチームは少ないです。プロチームの定義にもよりますが、10チーム程度ではないでしょうか。
たぬかな:eスポーツは、まだまだこれからですよ。どんどん盛り上げていきたいです!それから、どんどん稼ぎたいです(笑)。

日本の若者を元気にしたい。
有馬:続いて、伊草社長の夢や展望をお聞かせいただけますか?
伊草:経営者としての夢は、経営理念とつながるものなので、先ほど申し上げたことに近いものになりますが。まず、今、少子高齢化が凄まじい勢いで進んでいます。しかも、その少なくなっている若者たちに元気がなければ、日本の未来は明るくはないですよね。経営者としての夢は、それを打破することです。「社会貢献」という意味でも、それが一番大切だと思っているので。
宮﨑:元気のある若者を一人でも増やしていくことが、伊草社長の夢であり、経営理念であり、社会貢献につながるということですね。
伊草:はい。例えば10代でも世界で活躍するスポーツ選手はたくさんいるので、悲観しきっているわけではありませんが、いわゆる2-6-2の法則ってありますよね。上の2割はすごく元気で、一番大きなボリュームゾーンの6割は、あまり元気がない。なら、その6割を何とかしましょう、という思いを持って事業を進めています。それから、先日50歳になって。まぁ、これは、半分冗談みたいなものですが、年をとってCEOだとか代表だとか言っているのってあまり良くないと思っているんですよ。そういうことは早く他の人に任せて、若い人たちと一緒にゲームをやって「ちきしょー!」とか言っていたいなぁ、なんてのもあります(笑)。そのためにも、社員をしっかりと育てていきたいですね。
有馬:若い人材を育てていくことも、事業はもちろん業界全体の活性化につながりますし、本当に大切なことですね。

伊草:企業は役割分担がすべてだと、私は考えているんですよ。経営や買収、お金のことは私の役割で、選手たちは試合に勝って、メディアに出て、どんどん際立っていってもらう。それは決して私にはできないことですしね。いろいろな役割の人が集まってeスポーツを盛り上げていきましょうと。もちろん、まだまだ世の中的には、文化的な側面でハードルがあったり、eスポーツ用のスペースをオープンさせるにしても法律の壁があったりと、それぞれの役割を完璧に果たせるようには、まだなっていませんが、そういった課題ともきちんと向き合っていきたいと思います。

宮﨑:eスポーツの周りにある課題が解決されることで、どんどん社会に認められ活性化して、選手たちの活躍の場が広がっていけば、本当に素晴らしいことですね。
有馬:今回、お二人からお話を伺って、これまでどこかモヤモヤしていた「今、eスポーツってどうなの?」というところが、クリアになったと感じています。日本でもeスポーツが海外のように本格的に盛り上がるには、文化的な側面を含めいろいろな課題があって、でも、盛り上がっていくためのポテンシャルはすごく高い。そして、伊草社長やたぬかなさんのような、eスポーツの活性化に向けて精力的に活動している方がいらっしゃって、本当に素晴らしく可能性に満ちたコンテンツなんだと思いました。
伊草:できることは、どんどんやっていきますよ。それから、やっぱり、選手たちには勝たせてあげたいですね。優勝なんてしたら、本当に涙が出るくらいうれしいですから。
たぬかな:私も社長を泣かせたいです!
一同:(笑)
有馬 旬治 プロモーション局 プロモーション プランナー
2013年jeki入社。プロモーション局配属後、流通会社・商業施設等のプロモーションを中心に担当している。