
中央左:CYCLOPS athlete gaming たぬかな氏
右:ジェイアール東日本企画関西支社 有馬旬治
左:ジェイアール東日本企画関西支社 宮﨑元希
コンピュータゲームの腕前を競い合う「eスポーツ:エレクトロニック・スポーツ」。今や、全世界で競技人口は1億とも言われ、市場規模は数億ドルを優に超えています。2022年アジア競技大会の正式種目に決定したことをはじめ、その盛り上がりはとどまることを知りません。また、日本でも国体の文化プログラムに選ばれるなど、大きな進展を見せています。
そこで今回の中之島サロンでは、大阪を拠点に活動するプロゲームチーム「CYCLOPS athlete gaming」の運営をはじめ、eスポーツに関わる数々の事業を手掛けておられる伊草氏と、女性二人目のプロゲーマーにして、世界を舞台に活躍する鉄拳プレイヤーのたぬかな氏をお招きし、ジェイアール東日本企画関西支社・有馬、宮﨑が、経営者とプロゲーマーそれぞれの立場から見えるeスポーツの今とこれからについて話を伺いました。
前編の今回は、日本におけるeスポーツ市場の現状や文化的な立ち位置、たぬかな氏とeスポーツとの出会いなどについてご紹介します。
幅ひろく、より深くアプローチする。
有馬:先日、私の隣にいる宮﨑と大阪で開催されているeスポーツの大会にお邪魔してきました。いわゆるゲーマー以外の方も参加されるイベントなのかなぁ、と思っていたのですが、会場に行ってみると本当に圧倒されましたね。
伊草:ゲーマーの方が多かったでしょう?
有馬:はい。私たちはゲームをあまりやっている方ではないので、ちょっと入りづらいなぁって思ってしまいましたが(笑)。会場はすごく雰囲気があって、いろんな発見がありました。
宮﨑:観ているうちに、少しずつ面白さがわかり、見入ってしまいました。例えば、テレビでボクシングの試合を観ていると、ガードが上手いな、とか、ここはジャブだろ、とか、素人ながらに面白さがわかってきますよね。観戦する側としては、そうした感覚に近いのかなと。
有馬:今、日本でeスポーツのイベントといえば、先日参加した大会のような、どちらかといえばゲーマーをターゲットとしたものが多い印象を受けていますが、実際はどうなんでしょうか?
伊草:日本では参加者と視聴者が同じです。つまり、ゲームをやらない人がゲームの大会などに来るシーンはまだまだ少ないですね。そういった中で、私たちは今、ふたつの事業を進めていて、ひとつはプロゲームチームの運営。それからもうひとつは、ゲームイベントの実施です。ふたつ目に関わる事業で、ここ1年、いろいろな取り組みを進めておりまして、もっともっとライトな層や親子で参加してもらえるイベントなども、意識的に開催しています。
宮﨑:最近はライトユーザーに向けたイベントも増えているんですね。
伊草:いわゆる「日本のゲーム文化」を再定義しなければならないという大上段のところから、私たちの会社はスタートしています。「プロゲーマー」というものが職業になり、若者にとって目指すべきキャリアになり、社会や学校、親御さんがそれを快く支援してくれるようなものにしたいと思っています。なので、今までのようなゲームパブリッシャーに寄り添ったゲームイベントだけではなくて、もっとeスポーツを一般的なものとして広げていくためにも、幅広い層に向けた取り組みも行っています。

宮﨑:今さらですが、eスポーツとは具体的にどういったものを指すのでしょうか?
伊草:いろいろな場所で、「これも、eスポーツですか?」と聞かれることがありますが、その言葉に捉われる必要はないと思っています。例えば、1つのステージをより早くクリアすることでもよいですし、時間内で点数を多く獲得した方が勝ちというルールにしてもよいわけです。競い合う要素があるコンピュータゲームであれば、ぜんぶオッケーです。
宮﨑:eスポーツとは、「コンピュータゲームで競い合うこと」と捉えればよいのですね。
伊草:ゲームイベントの実施については、例えば、プロゲーマーを頂点にしたヒエラルキーがあるとした場合、「友達同士ではプレイするけど、大会には出場しない中間の層」を上に持ち上げるのが大切です。この層のボリュームが一番大きいですから。それから、もう一段階上の層の人たちは、「大会に参加したり、大学のゲームサークルに入っていたりする人」。つまり、コミュニティに属している層ですね。この層もとても重要で、ゲーム産業はコミュニティが支えているんですよ。コミュニティがどんどん横につながっていって、人のうねりを作ることが、ゲーム産業そのものを大きくすることにつながります。そこで、私たちはコミュニティの支援事業として、本格的な大会の実施や地下のイベントスペースの貸し出しなどを行っているわけです。


宮﨑:イベントの開催は、新たなコミュニティが生まれたり、広がったりすることに直接つながりますよね。
伊草:先日、eスポーツの学生選手権を開催しました。十何校か参加していて、そこで、学生たちに、何で参加したの?何が楽しいの?って質問すると、みなさん、「友達を作りたい」って言うんですよね。その時、すごく衝撃を受けましたね。ゲーマーに対しては最初、「自分が楽しければいいや」なんて、クローズドな印象があったんですよ。でも、まったくそんなことはなくて、もっともっと広げていきたい、みんなで分かち合いたいという思いを強く持っています。だからこそ、イベントって盛り上がるんですよね。

宮﨑:コミュニティを広げたいのは、誰もが友達を作りたいのと同じで、人間の根本的なところかもしれませんね。
日本で、ゲームは文化になりえるか?
宮﨑:今、世界的にすごく盛り上がっていますが、日本はまだまだ発展途上だと感じています。海外と日本で盛り上がりにこれだけ差が出ているのは、どこに要因があるのでしょうか。文化的な側面やゲームの捉え方そのものに違いがあると考えているのですが。
たぬかな:それもあると思います。日本ではゲームを娯楽として扱っていますが、ヨーロッパやアメリカでは、「文化」として捉えられているそうです。

有馬:日本でも、欧米のように文化として認められれば、今後の展開も大きく変わってくるのではないでしょうか。
伊草:昨年2月に発足したJeSU(日本eスポーツ連合)でも、ゲームを文化にしよう、という動きは出ていて、私も「文化にしたい」という意見は同じなのですが、その「文化」の定義が難しいんですよ。例えば、中学や高校の部活動になることが「文化になること」と言う人がいます。
有馬:学校に認められることが、文化と認められるひとつのゴールかもしれませんね。
伊草:確かに、これは良いな、と思う部分もありますが、それだけだと、私としては足りていなくて、例えば、ダンスが中学校の必須科目になりましたよね。ところが、ダンスで食べてる人って、増えていないように思います。そこには「入口と出口」があって、出口の部分、つまりキャリアが不足しているからだと考えています。これと似た話で、野球選手になっても怪我をしたらどうしますか?と。解説者かコーチになる人もいますが、それはほんの一握りで、セカンドキャリアには厳しい現実が待っていますよね。これは、プロゲーマーも同じなんですよ。社会的に扱いが高くはなくて、キャリア形成も難しい。先ほども申しましたが、やはり、世の中全体で支援され、若者の目指すべきキャリアとしてきちんと食べていける土台ができて、はじめて文化と呼べるものになるんだと、私は考えています。

ゲームセンターから広がる世界。
有馬:今回はプレイヤー目線からも、いろいろとお伺いしたいのですが、たぬかなさんはどのような経緯でプロゲーマーになられたのでしょうか。
たぬかな:「プロゲーマー」の定義はたくさんありますが、私は専業で食べている人だと考えています。なら、そのプロには、どうすればなれるんですか?と言えば、大会で実績を残したり、ネット配信で人気を得て、プロゲームチームやスポンサーにスカウトされるのが一般的です。でも、私の場合は違っていて、CYCLOPS はおそらく業界初の公募をやっていったんですよ。「プロゲーマーになりたい人、募集!」みたいな感じで。
有馬:どのようにして、応募されたんですか?
たぬかな:まずは書類審査、それから、プレイ動画を送って面接。そういった流れでしたね。実績もなかったのですが、地元の徳島ではかなり本格的にやっていて、全国ランキングもすごく高かったので、その将来性を評価していただき今に至ります。
伊草:実績はあったよ。
たぬかな:いやいや。全然、大きな大会には出たことなくて。
有馬:全選手がスカウトで入ったのかと思っていました。様々な入り方があるんですね。たぬかなさんにとって、eスポーツの魅力とは、どのようなところにあると思いますか?
たぬかな:もともと、高校の頃に、友達とゲームセンターに行ったことが今につながっています。アーケードゲームの筐体に座ってプレイしてたら、知らない人がお金を入れて、「New Challenger!!」ってなるじゃないですか。その瞬間って、もう、すごくドキドキするんですよ。それから、すし屋のお兄ちゃんだったり、コンビニの店長だったり、ゲームを通じて学校では出会わない人たちと友達になるのも、楽しかったですね。仲良くなった人たちと、県外のゲームセンターに道場破りみたいな感じで、戦いに行ったり(笑)。高校生だった当時の私にとっては、本当に刺激的でした。

有馬:どんどんいろいろな世代の方と交流して、世界が広がっていくなんて、高校生にとってみたら、確かに刺激的ですよね。
たぬかな:そうですね。友達が増えていって世界が広がっていくところが、私が思うeスポーツの魅力なのかな。
有馬:女性のプロゲーマーの方ってまだ少ないと思うのですが、女性プレイヤーだからということで、気にされていることや心掛けていることってありますか?
たぬかな:もともと、女性だからって、言われるのがすごく嫌だったんですよ。女のわりにはがんばっているな、とか言われたり。でも、優遇されることがあるのも自覚しています。トップ8に入ったら、「女の子がトップ8!?うぉ~!」みたいに、盛り上がってもらったり、ちょっとずるいなって思うんですけど、「女の子でもトップ8に入れるんやで!」って、世の中に伝えることが大切だと思っています。
有馬:たぬかなさんに憧れて、プロゲーマーを目指す女性が増えれば、これもまた素晴らしいことですね。
たぬかな:そうなれば、最高ですね。
有馬 旬治 プロモーション局 プロモーション プランナー
2013年jeki入社。プロモーション局配属後、流通会社・商業施設等のプロモーションを中心に担当している。