もっと多くの人に観てもらいたい! 湯浅監督の思いと新たな挑戦が詰まった映画『きみと、波にのれたら』

エンターテインメント VOL.3

写真左:株式会社フジテレビジョン 総合事業局 コンテンツ事業センター プロデュース事業室アニメ開発部 岡安 由夏氏
写真右:ジェイアール東日本企画(jeki) コンテンツビジネス局 コンテンツ第一部 俵 賢太郎
写真左:株式会社フジテレビジョン 総合事業局 コンテンツ事業センター プロデュース事業室アニメ開発部 岡安 由夏氏
写真右:ジェイアール東日本企画(jeki) コンテンツビジネス局 コンテンツ第一部 俵 賢太郎

 疾走感あふれるストーリーと独特の映像美で、世界中に多くのファンを持つアニメーション監督の湯浅政明氏。待望のオリジナル最新作『きみと、波にのれたら』が6月21日(金)に公開されます。
 今回のテーマはなんと、青春ラブストーリー! 小さな港町を舞台に、消防士の青年・雛罌粟港(ひなげしみなと)と、サーファーの大学生・向水ひな子(むかいみずひなこ)をめぐる、切なさの中にも前を向いて生きていこうとする若者を描いた、希望に満ちた作品です。
 湯浅監督にとって、4作目の長編映画となるこの作品。なぜラブストーリーを選んだのか、そしてこの作品だからこそ挑戦したこととは何か、今作品のプロデューサーを務める株式会社フジテレビジョンの岡安由夏氏に、本映画の製作委員会に参画し、映画のプロモーションやタイアップに取り組む、jekiコンテンツビジネス局の俵賢太郎がお話を伺いました。

湯浅監督は日本のティム・バートン! ラブストーリー誕生のきっかけはあの作品?

俵:完成した映画を拝見しまして、今回の作品は「まるでディズニー映画を見てるのではないか」と思うくらい、映像と音楽の掛け合わせがとても印象的な作品でした。岡安さんは2014年から湯浅監督とお仕事をされているとのことですが、今回、プロデュースするにあたってどんなところをポイントにされたのでしょうか。

岡安:私はテレビシリーズで放映した「ピンポン」という作品からプロデューサーとして関わらせていただいています。その後、2017年公開の『夜明けを告げるルーのうた』(以下:「ルー」)を経て、今作となりました。
この『きみと、波にのれたら』(以下:「きみ波」)は、「ルー」を作り終わってすぐにプロットの作成に入りました。今回は、監督ご自身が、これまで自分の作品を観たことがないような人にも観に来てほしい、もっとたくさんの人に観てもらえる作品を作りたいと考えられていて、じゃあどんなテーマにするか、考え抜いた中で出てきたのが、ラブストーリーでした。

監督もちょうど新しいことをやってみたいと思われていたので、そこでより幅広い層に湯浅監督の作品を見てほしいという我々の思いとが一致し、決まったんです。

俵:ラブストーリーということで、湯浅監督とはどんなお話をされたんでしょうか。

岡安:私は湯浅監督のことを、勝手に「日本のティム・バートン」だと思ってるんですよ(笑)。ですから異形のものとのラブストーリーはどうかなと、「シザーハンズみたいなものはどうですか?」とご提案しました。そして監督から出された最初のプロットが、「きみ波」のストーリーの根幹になる、死んだ恋人が水の中に蘇ってきたというもの。異形というのが幽霊という形になって、私が考えていたものより、さらにロマンチックになって返ってきました。

俵:死んだ恋人が愛する人を守ろうと幽霊になって出てくるラブストーリーというと『ゴースト~ニューヨークの幻』が思い浮かびますね。

岡安:はい。『ゴースト』は映画の脚本打ち合わせのときから、何度も話題に出ていました。

c2019「きみと、波にのれたら」製作委員会
© 2019「きみと、波にのれたら」製作委員会

つらい別れがあったとき、それを乗り越えるきっかけとして思い出してくれる作品になったら

俵:タイトルにも入っている「波」という言葉は、作品のイメージを表すキーワードになっているようにも思いました。人生の波に乗る、困難な波に立ち向かうというような。

岡安:実は最初の頃は「波」というワードは出てこなかったんです。最初にあったのは「水」です。「ルー」でもたくさん水を描きましたが、また次も水を描きたいという監督の思いもあって、水→海→主人公はサーファーという設定が出てきたんですね。サーフィンで波に乗ることと、何かつらいことを乗り越える、ひな子は恋人の港を海の事故で亡くしてしまうんですけど、そのつらさを乗り越えるという心情が、偶然にも「波に乗る」という言葉に集約されていきました。

俵:それと、全体を通じて、若い世代に対しても、「今のこういう時代になかなか一歩踏み出せなかったりするけど、ちょっと一歩踏み出してごらんよ」というメッセージもこめられているように感じました。

岡安:監督がインタビューでも「いろんな情報があふれていて、狡猾に生きないとなかなか生き抜いていけない中で、自分に素直に生きている主人公を、自身の波に乗せてあげたいという気持ちで作った」とおっしゃっていて、監督の優しい人柄がすごく詰まっていると思いました。

この作品を表すものとして、「自信を持てずにいるすべての人へ、背中を押すような物語」というメッセージが表に出ていますが、私は映画を観た方に別のメッセージも受け取ってほしくて。脚本を担当された吉田玲子さんが「どんな人でも生きていると大切な人やものとの別れを経験する、だからその別れとどう向き合っていくかを描いた」という趣旨のことをおっしゃっていたのですが、それが皆さんと共有できるメッセージになればいいなと思っています。観てくださった若い方々が、今後つらい別れがあったときに、それを乗り越えるときのきっかけとして思い出してくれる作品であったらいいなと思っています。

ひな子が何度も口ずさむ2人の思い出の歌。実は港目線の歌だった?

俵:冒頭、ディズニー映画のようなという話をしましたが、ひな子が2人の思い出になっている歌を歌うことで、港が水の中に現れます。歌は物語の重要なキーワードになっていますよね。

c2019「きみと、波にのれたら」製作委員会
© 2019「きみと、波にのれたら」製作委員会

岡安:湯浅監督は絵だけでなく、音楽の使い方も非常に素晴らしいんです。なので「ルー」が終わったあと、次の作品ではもっとそれを押し出したいと考えまして、「歌」がキーとなる物語を作ろうということになりました。ですので、配役も歌をセットにして考えました。そしてオファーさせていただいたのが、GENERATIONS from EXILE TRIBEの片寄涼太さんと川栄李奈さんです。

c2019「きみと、波にのれたら」製作委員会
© 2019「きみと、波にのれたら」製作委員会

岡安:片寄さんにオファーさせていただく際に、GENERATIONS from EXILE TRIBEにこの映画の為に楽曲を作って欲しいというお願いもさせて頂きました。それくらい、「歌」を重視していたんです。そうして頂いたのが主題歌の「Brand New Story」です。
劇中では主題歌が、エンディングロールはもちろん、作中、二人でまるまる一曲デュエットし、さらにサビについては、港を呼ぶために、ひな子は何度も何度も口ずさみます。こんなに主題歌が流れる映画はほかにはないんじゃないでしょうか。

俵:歌の歌詞にもこだわりがあったんでしょうか。

岡安:GENERATIONS from EXILE TRIBEのプロデュースチームには、脚本を読んでいただいた上で、港目線で、もう一緒にはいられない彼女に対してエールを送る歌を書いてほしいというお願いをしました。また、監督からの、暗い曲ではなく、新しい波を待つ明るさがある曲にしてほしいというオーダーがマッチしたと思います。

「Brand New Story」という言葉は、普通に聞くと明るい印象のみを受けると思うのですが、映画をご覧になったあとにこの歌を聴くと、僕がいない世界で君の新しい物語がある、僕はもういないけどずっと応援しているというメッセージが感じられると思います。港目線で聴くとまた違った印象を受ける楽曲ですので、映画館を出たあとにもう一度聴いていただきたいです。

c2019「きみと、波にのれたら」製作委員会
© 2019「きみと、波にのれたら」製作委員会

制作陣も、これまでの作風を踏襲しつつ新しい映像表現にチャレンジ

俵:港役の片寄さんは声優初挑戦ということでしたが、真っ直ぐで、しかも自然な雰囲気が港のキャラクターとすごく合っていると思いました。

岡安:ありがとうございます。もともと、構成上、二人が惹かれ合うところはあまり尺が取れないということもあって、キャラクターに、「この人だったら誰でもすぐに好きになっちゃうだろうな」という説得力を付与できる、王子的なイメージの方にお願いしたいと思っていました(笑)。そういうところで港と片寄さんご本人のイメージがシンクロして良かったなと思います。

c2019「きみと、波にのれたら」製作委員会
© 2019「きみと、波にのれたら」製作委員会

俵:キャラクターといえば、絵柄も今までとは違うようにお見受けしました。この作品だからこそ挑戦したことはあるのでしょうか。

岡安:湯浅監督と、制作されたサイエンスSARUさんがものすごくチャレンジしてくださったと思います。湯浅監督の作品は、シンプルな線のキャラクターが、これでもか!というくらいに動くのが魅力です。今回はその動きの魅力はそのままに、キャラクターのディティールや光の表現等、画面の情報量が過去作よりもアップしています。その分、サイエンスSARUさんの制作負荷は高かったと思いますが、新しい表現にチャレンジしていただいた。そうしたことで、より魅力的な映像になったと思います。

俵:多くの人に観てほしいという監督の思いが、新しい映像表現のチャレンジにもなったということですね。

岡安:湯浅監督は、これまでの作品からのイメージだと非常に個性が強いのかなと思われている方も多いと思いますが、ご本人は「より多くの方が観てくれる作品を作りたい」と即答する方です。ですが、これまでの湯浅作品をフォローしてくださった方の中には、こんな作品を作るなんてビックリしたとおっしゃる方もいました。そういった意味では、本作は新しいチャレンジだと私は思っています。

湯浅監督としては、今回も、自分が持っている沢山の引き出しの中の一つを見せているだけということのようですが。

俵:そういう新たなチャレンジをするということで、岡安さんご自身は監督とプロデューサーとの関係性についてどう思いながらお仕事をされているんでしょうか。

岡安:アニメの仕事に携わってきて思うのですが、アニメのプロデューサーは「見た目のカッコいい主人公が良い」と思っても、絵は描けないし、「こんな場所を舞台にしたい」と思っても、設定を起こして一枚一枚、背景を描けるわけではない。実写よりも現場を実際にコントロールする力は弱いと思っています。逆にアニメの監督は、そういうことをすべてをコントロールするので、持っている力がとても大きいですよね。ですので、仕事をする際には、監督がどういう方向を向いているのか、その方向に我々も賛同して、乗れるかどうか、最初のセッティングを重要視しています。

俵:この作品は、ストーリー、歌、映像、演じるボイスキャストの方々などいろんな要素が完全にシンクロしているんですね。もちろん、プロデューサーである岡安さんが、まさに湯浅監督の“波に乗る”ことで生まれた作品でもあると思います。

jekiとしましても、作品の世界観とシンクロしたプロモーションを展開できたらと思います。
本日はありがとうございました。

映画「きみと、波にのれたら」2019年6月21日(金)全国東宝系にてロードショー

大学入学を機に海辺の街へ越してきたひな子。サーフィンが大好きで、波の上では怖いものなしだが自分の未来については自信を持てずにいた。ある火事騒動をきっかけに、ひな子は消防士の港(みなと)と出会い、二人は恋に落ちる。

お互いがなくてはならない存在となった二人だが、港は海の事故で命を落としてしまう。大好きな海が見られなくなるほど憔悴するひな子が、ある日ふと二人の思い出の歌を口ずさむと、水の中から港が現れる。「ひな子のこと、ずっと助けるって約束したろ?」
再び会えたことを喜ぶひな子だが…。

二人はずっと一緒にいることができるのだろうか? 港が再び姿を見せた本当の目的とは?

© 2019「きみと、波にのれたら」製作委員会


<作品概要>

タイトル:「きみと、波にのれたら」
公開日:6月21日(金)
監督:湯浅政明
脚本:吉田玲子 音楽:大島ミチル 
出演:片寄涼太(GENERATIONS from EXILE TRIBE)、
川栄李奈、松本穂香、伊藤健太郎
アニメーション制作:サイエンスSARU   
配給:東宝
コピーライト:© 2019「きみと、波にのれたら」製作委員会
公式サイト:https://kimi-nami.com/

上記ライター俵 賢太郎
(コンテンツ プロデューサー)の記事

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  • 俵 賢太郎
    俵 賢太郎 コンテンツビジネス局 コンテンツ プロデューサー

    2005年jeki入社。営業局にて一般クライアントを担当した後、メディアコンテンツ推進センターにてエンタメコンテンツを活用した広告キャンペーンの企画プロデュースを担当。 2014年からコンテンツビジネス局にて、多くの映画やアニメ製作委員会に事業参画。