「本物」を見抜く目をベースにエモーショナルなブランド品との出会いを演出する 山内祐也氏 (コメ兵) × 鈴木隆士 (ジェイアール東日本企画)

jeki × 宣伝会議 共同取材シリーズ VOL.10

リユース業界のトップランナー、コメ兵。近年は多様化するニーズに対応するため、ECや2017年の11月にはブランド品に特化したフリーマーケットアプリ「KANTE」のリリースなど、新たなサービスの提供にも注力している。2019年2月にはブランド品買い取り時の真贋判定にAIを導入することも発表、テクノロジーの活用も進んでいる。市場をリードし続けるコメ兵の山内祐也氏にジェイアール東日本企画の鈴木隆士が聞いた。

山内祐也氏、鈴木隆士
写真左 コメ兵 執行役員 経営企画本部 副本部長 経営企画部長 兼 事業開発部長 山内祐也氏
写真右 ジェイアール東日本企画 第五営業局長 鈴木隆士

消費者とのタッチポイントを増やし、ブランド品に触れるきっかけを作る

鈴木:今、リユース業界、特に御社の強みとなっているブランド品のリユース市場はどのような状況なのでしょう。

山内:リフォーム産業新聞社が発行している「中古市場データブック」の2018年度版によると、リユース全体の市場規模は2兆円弱になっています。そのうち、当社で扱っているような宝石、時計、ブランドバッグなどのブランドリユースはおよそ2400億円を占めています。 リユースの市場は成長しています。中国人旅行者の「爆買い」の追い風は元の急落で小休止した時期もありましたが、右肩上がりの傾向は続いています。ただ、景気や為替などの要因に影響を受けやすく、経営方針としては乱気流の中を飛ばなければいけないという認識で計画を立てています。

鈴木:買い取った商品の販売先は一般消費者だけではなく、同業者もあるのでしょうか。

山内:私たちの店舗は、立地に合わせた「編集型」で作ることを重視しています。そのため、店舗によって扱う商品やブランドも異なります。そこから外れたものを別の事業者にオークションなどを通じて販売しています。 同じリユース事業者でも販路など、それぞれ強みが異なっているので、競合関係にありながら、ときには協力関係にもある。お互いにお客さまが求めているものを仕入れて、販売できることが、最終的にはお客さまにもメリットがあるととらえています。 こうした取り引きの中で、真贋を見極め、適切な価格で買い取り、販売することで積み重ねてきた信頼が私たちのベースになっています。

鈴木:やはり真贋判定は重要ですか。

山内:真贋判定と価格設定は、間違いなくコアコンピタンスになっています。年間140万点の商品を扱っており、それだけの量の真贋を判定し、適正な価格をつけているという知見は私たちの財産ですが、それらは当然あるものとして、そのうえで何を提供するかがポイントになってきています。 今、私たちが注力しているのは、タッチポイントをいかに作るかということです。マーケティングチームがポイントとしているのも、まずは多くの人にリユースに触れていただくことです。いかに自分に関係のあるものとしてリユースを考えてもらえるような、エントリーのきっかけを作るかを重視しています。 また、近年はブランド品を購入する人たちがモノを売るときに、どれだけ高く売れるかというリセールバリューを意識することが増えています。こうした価値観の変化を購買行動にどう組み込んでいくのかも意識しています。

鈴木:店舗もタッチポイントの一つだと思います。編集型の店舗作りにはターゲット設定が必要です。

山内:基本的にはある程度可処分所得があり、ファッションに関心の高い40代〜50代をターゲットとして考えています。近年はこれに加えて、デジタルネイティブのミレニアル世代をいかに取り込んでいくかも課題としています。 店舗は、例えば大須の名古屋本店と名古屋駅前店でも、新宿店や銀座店もそれぞれ違う雰囲気、品揃えになっています。とはいえ、コアとなる主力ブランド、バッグではルイヴィトン、エルメス、時計ならロレックス、オメガのスポーツモデルという定番はおさえながら、エリア特性や顧客層による商品の編集を行っています。 タッチポイントという意味では、店舗だけではなく、ECや「KANTE」のようなCtoCのプラットフォームも重要です。 私たちはブランド品のリユースというニッチな市場で事業を展開していますが、お客さまはコメ兵だけを利用するわけではありません。他のフリマアプリやネットオークションを見ることもあるでしょうし、別のリユース事業者のECサイトを見ることもあるかと思います。そうした状況にあって、私たちがECサイトや「KANTE」アプリでコメ兵の真贋判定や適正な価格づけを背景にサービスを提供することは、タッチポイントになりますし、私たちのブランドを好きになってもらう機会を増やすことにもつながります。 お客さまにとって何が価値かを考えたときに、多様なタッチポイントは絶対に必要になってきます。

AIの導入はより良い労働環境を作るため

山内:私たちがターゲットとしている層でも、ブランド品を売るときの動機はさまざまです。新しいものを買うために家の中のスペースを開けたい、断捨離したい、売った資金で新しいモノ・コトを楽しみたいなど色々なニーズがあります。ニッチな市場にも関わらず、購買行動が一定ではないという点では少し特殊な環境にあると思います。

鈴木:そうなるとマーケティングが非常に難しいですね。

山内:リユースという市場は成長しているのですが、ジャンルが細分化されていて、それぞれの分野の利用者となると絶対数は少ない。マスマーケティングができるような規模にはなっていない。そういう意味ではコモディティ化していない市場であるとも言えます。

鈴木:今のターゲットが高齢化し、次の世代に入れ替わったとき、同じニーズがあるとは限りません。

山内:そのリスクはあるでしょう。ただ、リユースの利点のひとつとして私が考えるのはリユース品は新品の時に一度売れたものであることにあります。いつ、どんな時代でも、一流のブランドのデザイナーやマーケターが生み出したヒット商品を扱うことができます。 私たちが商品開発をしなくても良いというのは、リユースの強みです。一方で、時代に合わせてどのような商品が求められているのか、店舗でお客さまと接しながら、トレンドを押さえ、適正な価格で流通させていくことが私たちの重要な役割だと思います。 店舗やEC、アプリ、アウトレットなどブランド品を購入するチャネルはたくさんありますが、お客さまもその全てを網羅しているわけではないはずです。いくつもの選択肢のなかから、たまたま良い出会いがあって購入する。ですから、その出会いをいかにエモーショナルに演出するかが大事になります。そのための編集型の店舗であり、複数のタッチポイントがあるということです。

鈴木:コメ兵さんと触れる瞬間を良いものにするためにも、やはり土台となる真贋判定は重要です。今年、そこにAIを導入される予定ですが、その狙いはどういったところにあるのでしょうか。


山内:鑑定士には教育プログラムを受講してもらうことになっています。以前は徒弟制のような形で先輩社員が後輩社員に指導する教育体制でしたが、現在はeラーニングを導入しています。テキストと動画で学習し、テストをクリアすれば鑑定士として店頭で買取業務を行うことができるという形です。 また、日本国内では離職率が低く、特に私たちの会社は非常に低い状態になっていますが、海外、特にアジアは離職率が高いので教育にコストがかけられない事情もあります。そこで、私たちの知見を集合知にするためにテクノロジーを活用したのが「AI真贋」です。

鈴木:「AI真贋」は判定の精度を高めるためではなく、経営や人事面の目的も大きいのですね。

山内:判定の精度向上はもちろん大事です。「AI真贋」については、それ以上に働き方を変えることを重視しています。日々更新される偽物の情報を覚えたり、判定について他の担当者に問い合わせたりするために使う時間よりも、店頭でお客さまと接する時間を大事にしたい。あるいは、従業員が仕事以外の時間を充実させ、そのときの流行を知れば、ブランド品の価格をより適正につけることにもつながります。お客さまとのコミュニケーションも商品に関することだけにとどまらなくなれば、店頭での体験もより良いものになると考えています。

「AI真贋」を活用した査定イメージ
「AI真贋」を活用した査定イメージ

山内:今、日本のリユース業界の真贋、プライシング、品質管理は世界一であると言えます。海外にはまだブランド品の真贋を判定し、適正価格をつけて流通させる業態はほとんどありません。ようやく北米で上場する企業や、中国で事業展開する企業が出てきたところですが、まだ日本ほどのレベルには達していません。 テクノロジーだけならシリコンバレーや深圳の開発能力にはかないません。しかしながら、そこにリユースを組み合わせれば、国際競争力に繋がると考えています。「リユース×テクノロジー」(コメ兵では、このソリューションを“リユーステック”と名付けています。テクノロジーの活用によって、便利に安心できる健全なリユース市場を創造し、モノのシェアによる持続可能な社会を実現するためのものです)は、現在の日本国内での優位性を、グローバル化したときにも維持するために、今取り組むべき課題だととらえています。

鈴木:今後、テクノロジーの導入も含めた展望はどのように考えていますか。

山内:これからも店頭でのサービスは変わらず重視していきます。ただ、主戦場はウェブの世界で、テクノロジーが勝負を左右するという意識を持っています。お客さまに世界の良質を届けていくためにAI真贋も含めてチャレンジは続けたいと考えています。 また、タッチポイントの開拓も重視しています。昨年、古物営業法が一部改正され、店舗やお客さまの自宅でしか認められていなかった買取業務を、申請すれば仮設店舗でも可能になりました。すでに百貨店や、商業施設、喫茶店、マンションなどで期間限定のイベント型買取サービスを展開しています。ブランド品の買い取りは、最初の一回をどう体験してもらうかが大事なので、店舗出店や期間限定のイベント型買取サービスは新たなタッチポイントの開拓として重視しています。

【対談を終えて】

EC、アウトレット店などブランド品を低価格で購入するチャネルが多く存在する現代、どのようなお客様がリユースブランド品を購入するのか?最初は疑問を持っておりました。 しかしコメ兵様の店舗に伺い、ブランド品とのタッチポイントを大切されていること、エモーショナルに演出されていることにブランド品世代として大変納得させられました。 いくつもの選択肢の中から良い出会いを演出して、お客様に商品を購入して頂く。そのコアコンピタンスが真贋。仕事の内容は違いますが、私どものビジネスと共通する大切なものを感じました。今後、コメ兵様の「リユース×テクノロジー」の世界的な躍進がとても楽しみになる対談でした。

 

jeki × 宣伝会議 共同取材シリーズ

昨今の市場環境やコミュニケーション環境の変化のなか、成長を遂げる・ヒットを生むその底流には何があるのか。その一端を探るべく、jekiは宣伝会議マーケティング研究室と一緒に、ヒットコンテンツ・躍進企業のキーマンの意識に流れる「顧客視点・顧客志向」を紐解いていきます。

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  • 鈴木 隆士
    鈴木 隆士 第五営業局長

    営業本部 第五営業局長 1992年jeki入社。当時のSP局(現プロモーション局)配属。 航空会社、食品会社、商業施設等のプロモーション業務において、企画から実施まで全般を担当。2015年に第五営業局に異動。2018年7月より現職。