ライフスタイルの変化から新たな価値を開発し提供する ~マルサンアイ ボトル入り液状みそ「鮮度みそ」誕生物語~

イマファミ通信 特別編

マルサンアイ 開発統括部長 岡田信之氏
マルサンアイ 開発統括部長 岡田信之氏

こんにちは。イマドキ家族のリアルを伝える「イマファミ通信」担当、イマドキファミリー研究プロジェクトチームです。
私たちは、イマドキの子育て家族の行動実態・インサイトを捉え、企業と家族の最適なコミュニケーションを発見・創造することをミッションとして活動をしております。
直近では「イマドキ家族の食事」に関する研究を進めていますが、その中で改めて「調理時短のニーズ」を強く感じています。日本の食卓には欠かせない味噌汁においても例外ではありません。
そこで今回は特別に、液状みその「鮮度みそ」をはじめ多彩な商品提案をしているマルサンアイの開発統括部長である岡田信之さんにインタビューを行い、味噌に関する消費者動向と新しい味噌のあり方について、企業としてどのようなお考えをお持ちなのか、また「鮮度みそ」の誕生経緯についてお伺いしました。

変わり続ける「日本の食卓」に危機感

イマファミ研:働き方や価値観など、ライフスタイルの様々な変化は「食」にも現れるように思われます。その変化に応えるために食品メーカーとして、いろいろな工夫やご苦労があるかと思いますが、その中で特に気になられていることや感じていることがあれば、お聞かせいただけますか。

岡田:私たちは米と共に日本の食を支える「大豆」を素材として食品を作ってきました。その代表格である味噌の消費は、米の消費の減少と平行して年々減少しており、やはりライフスタイルの激変をダイレクトに感じています。
ただ、パン食の方の変化も感じています。というのも、豆乳および豆乳グルトの販売が好調で、パン食といえば乳製品だったのが、豆乳製品との置き換え現象が起きています。おそらく大豆製品の健康効果が支持されているのでしょう。

イマファミ研:面白いですね。ただ確かに豆乳製品の可能性は広がっても、日本の食卓がパン食が中心になって洋食化しているとなると、味噌は今後もなかなか厳しい状況が続きそうですね。

岡田:そうなんです。当社は2018年9月期決算で約18%が味噌事業による売上です。そこがずっと右肩下がりの状態なので、やはりなんとかしなければならないと思い、4年前から開発や生産、営業まで、すべての担当者が集まって、改善・改革の取り組みを始めました。味噌の販売量目標は2万1千400トン。味噌の生産は日本全体で40万トンを切るくらいなのですが、小さな味噌蔵や会社が各地にたくさんあって、業界4位の当社でも5%のシェアがあるかないかくらいなんです。ここをなんとか拡大していきたいと試行錯誤しています。

若い世代向けの味噌の開発に試行錯誤

岡田:味噌事業において当社の一番の稼ぎ頭は、袋入りの「純正こうじみそ」です。ずっと「これでなくちゃ」というファンが多く、本当にありがたいことなのですが、年齢層でみると60代以上になってきているんですよね。そうしたお客様も大切にしながらも、やはり若い世代に受け入れられるような商品を開発していかなければならない。実際、世の中の主流は袋でなくてカップに入った味噌ですから。

イマファミ研:容器の使い勝手からいうと、袋入りはなかなか手が出ませんね。利便性が高いほうにいってしまいます。

岡田:そうでしょう。それでいろいろ工夫したんですよ、(商品を指して)ここにキャップがつかないかとかですね。絞り出すスパウトタイプにできないかとか、タッパーに入れ替えるようなタイプはどうかとか試行錯誤したのですが、やはり今主流のカップ味噌には勝てないというところもあります。

イマファミ研:容器1つとっても、試行錯誤されてこられたんですね。その中で、この「鮮度みそシリーズ」という「ボトル入りの液状みそ」も、やはり消費者のニーズと会社の思いの着地点として誕生したものなのでしょう。そもそもどのような課題感が開発のスタート地点になったのでしょうか。

岡田:営業から商品戦略室という商品開発の部署に来た社員が「液体系をやりたい」と言ってきたのが始まりです。彼は豊富な営業経験から消費者のニーズやトレンド感を掴んでいて「今ある素材だけでは戦えない」というんですね。確かに当時、醤油はスリムなボトルタイプにシフトしつつあり、味噌にもその兆候はありました。小容量で手軽にすぐ使える、溶かしやすいなど、液状タイプの利便性が特に若い人を中心に認知されつつありました。しかしながら、2011年に他社から液状味噌は既に登場していて、後発であることはまぬがれませんでしたから、一瞬ためらいはあったんです。とはいえ、醤油売り場が数年で劇的に変化した姿を見ていますから、やらなければやらないで、リスクがある。それが圧倒的な後押しになりました。

鮮度にこだわったボトルタイプの液状みそが誕生

イマファミ研:ボトルタイプにシフトする可能性があるといっても、後発では差別化が図りにくいものです。

岡田:そうです。だからこそ、後発でやるからにはしっかりと何か新しい付加価値を提供したいと考えました。そこで新たに着目したのが「鮮度」です。味噌屋の一番の悩みというのは、どこのメーカーでも鮮度を保つことなんです。生味噌は酵母菌や乳酸菌が生きていて少しずつ熟成が進みますし、発酵を酒精で止めてもずっと同じ状態に品質を保つことは難しい。それでもまだ袋のタイプは空気に触れにくいのでまだいいのですが、主流になっているカップタイプは上の部分に空間ができるので鮮度が落ちやすいんです。

岡田:ボトルタイプについても、味噌が減ったら減った分、ボトルには空気が入って酸化してしまう。なので、マルサンの「鮮度みそシリーズ」のボトルには、そうならないような工夫がなされている容器を開発したわけです。

イマファミ研:はじめて見たときは、持ちやすい大きさでキャップの開閉も片手でできるし、プッシュすれば出したい分出てくるし、だしも入っているし、いろいろと便利だなと思ったんですが、鮮度も保って最後までおいしくいただけるというのはさらに魅力的ですよね。

岡田:封をあけても90日間は常温で保存ができるんです。そう言うと驚かれるんです。これはやっぱり鮮度みその利点だと思いますね。

イマファミ研:画期的ですよね。調理台に置けばすぐ使えて使用頻度も増えそう。食卓や棚の上でもいいなら、食卓でも味噌汁作りができますね。子どもに自分で作らせてもいいかも(笑)。

岡田:そう、便利になって“いつもの家事”に役に立つだけでなく、これまで利用していなかった人が利用したり、新しい使い方や食べ方ができるようになったりするので興味深いですよね。

「手軽に味噌汁」というニーズを掘り起こす

イマファミ研:忙しい人が増えて、毎日毎食とも手をかけて食事を用意することができなくなっています。「鮮度みそ」は、そんな中でも味噌汁は食べたいと思う人にアピールする商品だと思いますが、具体的にはターゲットとして、どのような方々に使われることを想定されているのですか。

岡田:まずは皆さんのようなワーキングマザーでしょうか。これまで食事作りを担ってきた女性が、仕事や育児などで調理時間を短縮する必要に迫られています。そんな方にぜひとも役立てていただきたいですね。
実は「鮮度みそ」を企画したチームで中心になったのが、小学生の子どものいる女性社員なんです。企画部門はどうしても働き方が不安定で、忙しい時にはどうしても遅くなってしまいます。それでもやっぱり食事はちゃんと作りたい、味噌汁も作りたいけれど時間がないというジレンマがあったそうです。その時に「こんな商品があったらいいな」という思いを企画に反映させてほしいと依頼しました。

イマファミ研:先日、イマドキファミリー研究プロジェクトで食事作りの調査をしたところ、時短が求められる中で「和食で味噌汁を飲みたいけど登場しない食卓」が多く見られました。そこにも味噌汁が加えられる可能性があります。

即席味噌を選んでいた男性にもリーチ

岡田:ただ興味深いのは、この商品を喜んでくれたのは、私たちが想定した「共働きの女性」だけじゃないんですよ。「鮮度みそ」の購買者分析をしてみると、生味噌より即席味噌購買層の構成比に近いことがわかりました。即席味噌の利用者は生味噌に比べて断然男性が多いんです。ということは、認知次第では男性にももっと使っていただけるのではないかと思っています。たとえば、学生や独身者、単身赴任者、それから職場でのランチ、休日のアウトドアレジャーなどですね。
ボトルという形状自体が手軽で男性に人気です。特に独身者、単身赴任の方には喜んでいただけますね。これは新たな発見でした。

イマファミ研:液状みそを企画されたときより、ユーザーも利用場面も想像以上に広がったという印象なんですね。

岡田:そうですね。たとえば、最近テレビで「赤だしの豆味噌はコク出し調味料」と紹介をしてくれたんですよ。それが「1滴ずつ出せる」鮮度みそなら“ちょい足し”も簡単ですから、コク出し調味料やかけ調味料として使えますし、塩分を気にしている人などにもいいでしょう。「常温で90日間鮮度保持」というのも、テーブルユースの調味料となる可能性があります。醤油、ソースに加えて3つ目に置いてもらえるとうれしいですね。特に中京圏はかけ味噌の文化がありますし。

岡田:そして、その先には海外に広がることも考えています。海外への留学や赴任で持っていく、日本のお土産として持ち帰るというように、手軽に海外に持ち出せるのもボトルならではです。醤油のように世界に広がるといいなと思います。

味噌市場に新しい風を吹き込みたい

イマファミ研:味噌市場が縮小する中で、広がることを前向きに考えられるのは素晴らしいことだと思います。

岡田:意識改革は大事ですね。これまで味噌事業はカット、カットという発想できました。するとどうしてもモチベーションが下がってしまうので、いやいや違うよ、鮮度みそを中心に新しい価値を生み出していくんだと。各部署の方針発表会に行って鮮度みそをやる必要性を説明するなど、社内に対してもしっかりと意思表明をしたわけです。ただ売り場を見るとわかると思いますが、味噌売り場はちょっと暗めです。液状は鍋だしや麺つゆが入れ替わって季節感がありますが、味噌売り場は和え物や酢味噌がかろうじて春を伝えるくらい。そこに新しい風を吹き込みたいと思っているんです。

イマファミ研:サンドウィッチマンを起用した広告展開もその一環というわけですね。

岡田:単品ワンフェイスだと売り場でも目立ちませんし、1年間やってみて、明確なメッセージを広く伝える必要があることを痛感しました。使ってもらえば良さがわかってもらえるし、「鮮度みそはマルサン」とパッと印象付けるためにインパクトのあるアイコンとして、サンドウィッチマンさんを起用したというわけです。

イマファミ研:市場からの反応は何か感じられましたか?

岡田:インターネット調査の結果では、「鮮度みそ」は、CM以前は7%の認知率が18%にまで上がりました。それで、4月からはエリアを広げてもう少しプロモーションに投資する予定です。YouTube広告もF1とF2にターゲティングして配信していますが、もっと広く展開したいと思っています。

消費者のインサイトに基づく新たな提案を

イマファミ研:確かに利用者も使われ方も想像以上に広がりが期待できそうですよね。サンドウィッチマンさんを起用したコミュニケーションのほかにはどんな施策を行われていますか。

岡田:オレンジページとデリッシュキッチンで、料理研究家 浜内千波先生考案のレシピを紹介しています。これもコツコツとやっていく重要性は認識しています。今はやや定番的な物が多いのですが、春からはもう少し季節感を出していきたいですね。

岡田:それから、面白い傾向としては酒精で発酵を止めたものや、カップや袋のだし入りタイプがやや伸びが止まっていて、だしも入らず殺菌もしない生の「無添加みそ」を選ぶ人が増えてきており、簡単便利と本格無添加という二極化が顕著なんです。それも1人1種類でなくて、数種類を使い分ける人が増えています。
ライフスタイルの多様化もあり、1人の中でも多様化が進んでいます。いつも無添加みそを使う人が、趣味のキャンプには液状みそを使うこともあるわけです。もちろん、家族の中でもそれぞれライフスタイルは違います。私たちとしては、一人ひとりのニーズに合わせて味噌を使う人を増やすのはもちろん、目的買いみたいな形で複数購入して使ってもらえるようにしたいですね。ライフスタイルや目的に合った商品を出して、使い方と合わせて提案することで、お味噌や豆乳のような大豆商品をもっと生活に取り入れてもらえればと思っています。

イマファミ研:「味噌」という日本の食卓に根付いている商品であっても、ライフスタイルの変化による影響をこれだけ受けてしまうとは驚きでした。ただ、成熟市場においても新たな提案によって利用の可能性が広がっていくんですね。そのためにも、新たなライフスタイルから生まれるニーズやターゲットのインサイトを捉えることの重要性を改めて学ばせていただきました。

このたびは大変興味深い話をありがとうございました。

上記ライター高野 裕美
(イマドキファミリー研究所リーダー/エグゼクティブ ストラテジック ディレクター)の記事

上記ライター土屋 映子
(シニア ストラテジック プランナー)の記事

イマファミ通信

イマドキファミリー研究所では、働き方や育児スタイルなど、子育て中の家族を取り巻く環境が大きく変化する中で、イマドキの家族はどのような価値観を持ち、どのように行動しているのかを、定期的な研究により明らかにしていきます。そして、イマドキファミリーのリアルなインサイトを捉え、企業と家族の最適なコミュニケーションを発見・創造することを目的としています。

[活動領域]

子育て家族に関する研究・情報発信、広告・コミュニケーションプランニング、商品開発、メディア開発等

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  • 高野 裕美
    高野 裕美 イマドキファミリー研究所リーダー/エグゼクティブ ストラテジック ディレクター

    調査会社やインターネットビジネス企業でのマーケティング業務を経て、2008年jeki入社。JRのエキナカや商品などのコンセプト開発等に従事した後、2016年より現職。現在は商業施設の顧客データ分析や戦略立案などを中心に、食品メーカーや、子育て家族をターゲットとする企業のプランニング業務に取り組む。イマドキファミリー研究プロジェクト プロジェクトリーダー。

  • 荒井 麗子
    荒井 麗子 イマドキファミリー研究所 シニア ストラテジック プランナー

    2001年jeki入社。営業職として、主に商業施設の広告宣伝の企画立案・制作進行、雑誌社とのタイアップ企画などに従事。2011年より現職。現在は営業職で培った経験をベースに、プランナーとして商業施設の顧客データ分析や戦略立案などのプランニング業務に取り組んでいる。

  • 澤 裕貴子
    澤 裕貴子 イマドキファミリー研究所 シニア ストラテジック プランナー

    2002年jeki入社。商業施設の戦略立案などのプランニング業務に従事し、 その後アカウントエグゼクティブとして広告宣伝の企画立案・制作進行などの業務を担当。 2011年より現職。現在はJRやJRグループ会社の調査やコミュニケーション戦略立案などを中心に、 プランニング業務に取り組む。

  • 土屋 映子
    土屋 映子 イマドキファミリー研究所 シニア ストラテジック プランナー

    2004年jeki入社。営業職として、主に企業広告のマスメディアへの出稿などの業務に従事。2009年より現職。現在は商業施設の顧客データ分析や戦略立案などを中心に、プランニング業務に取り組んでいる。

  • 河野 麻紀
    河野 麻紀 イマドキファミリー研究所 ストラテジック プランナー

    2008年jeki入社。ハウスエージェンシー部門のプランニング業務に従事した後、営業局、OOHメディア局を経て、2017年より現職。現在は営業・メディアで培った経験を活かし、再びプランニング業務に取り組んでいる。