時空をつなぐ「ひかりのゲートウェイ」がテーマの「東京ミチテラス2018」。
その演出アイデアの源泉を花房伸行氏に聞く

(写真左)ビジュアルアーティスト・映像クリエーター 花房 伸行氏
(写真右)東京ミチテラス2018実行委員会事務局長 石川 勉(株式会社ジェイアール東日本企画 執行役員 企画制作本部副本部長)
(写真左)ビジュアルアーティスト・映像クリエーター 花房 伸行氏
(写真右)東京ミチテラス2018実行委員会事務局長 石川 勉
    (株式会社ジェイアール東日本企画 執行役員 企画制作本部副本部長)

jekiは、2001年の「東京ミレナリオ」の開催以来、東京・丸の内エリアを彩るイルミネーションの企画運営を通じて都市観光の振興に長年携わってきました。いよいよ2020年へのカウントダウンが始まり、平成から新しい時代へと移り変わろうとする今年の「東京ミチテラス」の演出テーマは「ひかりのゲートウェイ」。参画クリエーターのひとりである花房伸行氏に、東京ミチテラスの事務局長を務めるjeki執行役員 企画制作本部副本部長の石川勉が話を伺いました。

映像とダンスを融合した新しいパフォーマンス

石川
花房さんというと、私の印象に残っているのは2013年の東京オリンピック・パラリンピック招致活動でのエピソードです。視察を終えた評価委員を公式にねぎらう内閣総理大臣主催のパーティーの席で花房さん率いるenraの作品が披露され、モーショングラフィックとパフォーマンス、バーチャルとリアルの融合した表現形態が各国から絶賛を受けたと。その時、こういう素晴らしいクリエーターが日本にいらっしゃるんだと思ったのを覚えています。
花房さんは2009年ぐらいからKAGEMUというユニットで活動されて、欧米ではかなり評判になっていたそうですね。その後、2012年に映像とライブパフォーマンスを融合したパフォーミングアーツカンパニー『enra』を立ち上げ、世界的にも高く評価されていらっしゃいます。

花房
従来から映像を使ったパフォーマンスはあったと思うのですが、映像がただの背景としてではなくパフォーマーやダンサーの動きと一体になった表現というものはあまりなかった。そういう点が評価されたのではないでしょうか。
最初にKAGEMUで作品を作った時はまだユニット名もなくて、ダンサーの方と一緒に何か面白いものを作ってみようと。半分遊びのような感覚で六本木のクラブイベントでやったものをiPhoneで撮影してYouTubeにアップしたんです。

石川
それが世界に拡散したわけですね。

花房
そうですね。当時は僕もダンサーの方も個人として活動をしていて、全くお金もない状態でしたから、手持ちの機材と技術で最大限どれだけ面白いことができるかというところがスタートでした。作り上げる過程であれもやりたい、これもやりたい、と思っても、個人でできることには限界があります。自分の持っている技術やアイデアの中から消去法でたどり着いた、ある意味「引き算」でできあがった作品だったといえます。

enraと金子ノブアキ氏によるコラボレーションで生まれた作品「Firebird(火の鳥)」

石川
消去法であれだけの作品ができるというのはすごいことですね。それだけ多くの「技術の引き出し」を持っていらっしゃるわけで。花房さんは車のデザインを学んだ後に映像やCG制作を勉強されたそうですが、そのあたりの経緯を教えてください。

花房
僕は小さい頃から映画や漫画、読書が好きで好奇心が強かったんですね。それで、デザイン学校から先の進路を考えていた頃、ちょうど公開されていた映画「ジュラシック・パーク」を観てとても衝撃を受けました。それまで特撮もすごく好きでしたが、あの映画はCGで本物にしか見えない映像を作り出していて、完全に魔法でしかなかった。映像の世界に進んだきっかけはそこですね。

石川
その後、CGプロダクションに入社されてCMやテレビ番組のCGを手がけられたわけですね。そうした中で作品を作り続けると、アイデアは消耗されていくのではないかと思うのですが、花房さんの場合、どんどん新しいアイデアが湧いてくるのですか?

花房
アイデアがなかなか出てこないことはあっても、尽きることはないですね。

「足し算」ではなく「引き算」での作品づくり

石川
それは羨ましい。もう一つ伺いたいのが、花房さんの作品に見られる「和の世界」のことです。武術をはじめ和のモチーフが多いように感じますが、世界に発信するときに日本の伝統文化をアピールしようとした意図があるのでしょうか。

「足し算」ではなく「引き算」での作品づくり

花房
初期の頃は、おっしゃる通り「海外で受けるかな」という考えで和のテイストを感じさせるような作品をいくつか作っていました。ところが意外なことに、実際に海外でパフォーマンスをしてみると、忍者だとか、日本人がイメージする和を感じるような作品はあまり受けなかった。むしろ和のテイストが全くないシンプルなものや幾何学的なものが、とても評判が良かったんです。間の取り方や、削ぎ落とし方といったことにモダンなのにトラディショナルな和を感じるということで、そこは欧米のクリエーターには真似できないところだと言われたことがあります。

石川
なるほど。やはり、極上の表現をするためには「足し算」ではなく「引き算」ということですね。彫刻家が木や石を削っていくような。

花房
一番伝えたいことは何か、と考えるとき、いろいろなものを付け足していくと、なかなか伝わらないことの方が多い。色々アイデアがあって、あれもこれもと足していくと、作っているときは楽しいのですが、結局できあがったときに「何が伝えたかったんだろう?」となることが多いように思います。ですから、最初のコンセプトからなるべく外れていかないように、余計なものを削ぎ落としていく作業というのは非常に大切ですね。

石川
表現の技術を選択するときも、そういうことを意識するのですか?例えばCGを使わなくてもいい、というように。

花房
それはありますね。僕は映像作家として映像を軸に活動はしていますが、仕事でも作品でも絶対に映像を使わなくちゃいけないとか、そういうこだわりはありません。一番伝えたいテーマに合った表現であればどんな表現方法であってもいいと思っています。
「この技術がなかったら、表現したくてもできなかった」ということもあるので、技術の進歩というのはとても大事なことだとは思いますが、僕がやりたいことは技術を見せることではない。小さな子供からお年寄りまで男女も関係なく、いろんな人に見て楽しいとかカッコいいと感じてもらえるような作品を作りたい、という思いが常にあります。

石川
花房さんの感性は本当に独特で、ある種、漫画的な表現というものも感じられます。手塚治虫さんが大好きということですが、そのあたりの影響もありましたか。

手塚治虫、葛飾北斎から受けた影響

花房
小学生の頃はスピルバーグの映画に衝撃を受けて、そこから空想好きになり、小学6年の時に初めて「火の鳥」を読んで、トラウマになるぐらい衝撃を受けました。そのあとは葛飾北斎にもすごくハマりましたね。手塚治虫の漫画もそうですが、北斎の浮世絵を見ると、止まっている絵なんだけれど時間が動いている感じがするんですね。そのあたりの影響はすごく大きいと思います。

石川
北斎もかなりヨーロッパに影響を与えた人ですね。どういうところに影響を感じられたのでしょうか。

花房
有名な「富嶽三十六景」の「神奈川沖浪裏」を例にとると、特徴的なのは構図の面白さと波の一瞬の表現の仕方。ある瞬間を止まった状態で絵に起こすという点で漫画にも通じるのですが、その時間の止め方の面白さというのもあります。また、浮世絵は影が全くないベタ塗りの状態なんですけれど、奥行きや立体感を感じさせるというところもすごいですね。

石川
若い頃からさまざまな形で表現を吸収してこられたのですね。
今は何か意識してやっていることはありますか。

花房
昔は映画をたくさん観るというような直接的なインプットをしていましたが、最近はよくいろいろなものを観察しています。例えば電車待ちの時にホームの向こう側のコンクリートの壁についたシミを見て、あのシミはどうやってできたんだろう、とか(笑)。ボーっと観察して、そうした雑多なイメージが自分の中に溜まっていって、作品を作る時に全く違うところで組み合わされる、ということはあると思います。

石川
今いいお話を伺ったので、その話の流れで、そろそろミチテラスの話も少し伺いたいと思いますけれど、東京ミチテラスも今年で7回目。会場となる行幸通りですが、花房さんは以前からあの場所がお好きだとか。

空間そのものを感じとってもらいたい「ひかりのゲートウェイ」

行幸通りの「ひかりのスタディオン」。東京駅丸の内駅舎へと続く無数のひかりの列柱。その列柱に映し出される「炎」「水」「風」をモチーフとした映像が、美しい移ろいと煌めきを生み出す。 ©東京ミチテラス2018

花房
仕事で行ったりとか用事があったりした時に、よくあそこらへんをウロウロするんですよ。あそこまですっきりとしていて、道幅が広くて、看板などの余計なものがなくて、それでいて上に伸びている空間って、日本では他にないのではないでしょうか。自然のなかを歩くのとも、賑やかなところを歩くのとも、また全然違って。すごくすっきりしていてなおかつ圧迫感がないという空間が本当に好きなんです。

石川
そんな花房さんの好きな「舞台」で、今回は新たな時代への扉ということで「ひかりのゲートウェイ」をテーマに表現していただくわけですが。

花房
東京駅があって、皇居があって、そこをつなぐ通りをイルミネーションをぬって歩いていくイベントだというのを聞いた時に、ただただ道を二次元的に歩くというよりは、空間の中をゆっくりと何か感じながら歩いてもらいたいという風に思ったんですね。ですので、向こう側が透けて見えるスクリーンを使ったり、柱も骨組み状のものを使って隙間から風景が見えるようにしています。映像演出そのものを見ていただくというよりは、東京駅丸の内駅舎や駅前広場、周囲のビルの明かり、風景、そういったものを全部含めて「空間を感じてもらいたい」と思っています。劇場でもスクリーンでもないところで、どんな手法を使って何ができるか。そういう面白さを感じながら制作を進めています。

石川
期待しています。最後に、これから先クリエーターとして挑戦してみたいことはありますか。

花房
enraの活動もそうですが、これまではパフォーマンスというのがすごく強かったので、今後はストーリー性のあるものを手がけてみたいと思っています。

石川
それは楽しみですね。今日は大変興味深いお話をいただき、どうもありがとうございました。

花房 伸行/ビジュアルアーティスト・映像クリエーター
プロダクツデザインを経て、映像の世界へ入り、TV、CM制作から、展示映像、ファッションショー、コンサートVJなど、多くのジャンルで活動。映像制作にとどまらず、イラストレーション、立体造形、ステージ空間演出、総合プロデュースなど幅広い分野で独自の表現を展開している。国内では“ももいろクローバーZ”のライブ演出に不定期で参加。海外では、2012年にNYで現代音楽のバンド“THE BANG ON A CAN”とコラボレーションを行い、NY Timesで高評価を受けるなど、国内にとどまらず、国際的にアートワークが認められている。また同年、映像とダンスを融合したパフォーミングアーツカンパニー『enra』を設立。enraでは映像だけでなく、楽曲の制作も行い、映像・音楽・演出と、enraの世界観を構築する為の必要不可欠な要素を担っている。2017年から長野県阿智村の「天空の楽園 日本一の星空ナイトツアー」のコンテンツディレクターに就任。
「東京ミチテラス2018」は、12月24日(月・祝)※より開催いたします。
※一部12月14日(金)より開催
詳細は公式ホームページをご確認ください。

プロモーション

jekiが取り組むプロモーション展開の企画背景や舞台裏などを、キーマンへのインタビュー、対談等を通じて紹介します。

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  • Ishikawa.Tsutomu
    石川 勉 執行役員企画制作本部副本部長

    1956年横浜生まれ。早大卒。88年にSPプランナーとして広告業界で働き始める。88年、ブリスベン国際レジャー博覧会(オーストラリア )、92年ジェノヴァ国際船と海の博覧会(イタリア )の公式行催事チーフディレクターを経て、2000年1月にjeki入社。プロモーション局第三部長として、EURAIL SPEED(ベルリン、マドリッド)、国際鉄道安全会議などを担当し、2001年より東京駅および大丸有エリアで開催される東京ミレナリオ、光都東京LIGHTOPIA、東京ミチテラスなどを手掛ける。2018年より現職。