変わりゆく広告 テレビ・雑誌離れ世代を引き寄せている“体験型広告”(後編)

ナレッジワークス株式会社 取締役 亀山悦治
広告業界に知見のある方を講師として招き、jeki社員を対象とした多彩な講義を展開する「恵比寿大学」。「恵比寿発、」では、その一部の講義を広く社外にも発信していきます。VOL.1ではナレッジワークス株式会社取締役の亀山悦治氏に、体験型広告の可能性について寄稿していただきました。VOL.2は、その後編です。

新しい技術の出現により、ARの利用が加速する

後編は、体験型広告を実際に実現する場合の手法や技術について説明します。

拡張現実(AR)は現実世界を拡張する技術であり、仮想現実(VR)は仮想世界そのものを構成する技術です。また、現実世界をより生かした技術である複合現実(MR)は今までは高額で容易に利用できませんでしたが、MicrosoftのHoloLens(ホロレンズ)などの出現により普及が始まりつつあります。

©UTJ/UCL
Microsoft HoloLens 上にUnity chan を空間認識を行った上、ARマーカー起点で出現させ、指の操作でポーズを切り替えることができます。

ご存じの方も多いと思いますが、Appleは2017年9月に提供が始まったiOS11のリリースに合わせてARKitというAR技術を新たに提供しました。
ARKitは、私が所属しているようなAR開発会社からしますと、無料で利用できるAR技術の選択肢が増えただけのことにすぎませんが、スマートフォンに付属している1台のカメラだけで平面空間を高い精度で高速で認識し、位置推定や現実の光源をアプリに反映させるような表現もできるため、話題性や世の中の期待感はとても大きく、市場に対する多大な影響力をもっていると感じます。

これらアプリの登場によりAppleが標準で提供する技術以外のARアプリが必要なくなるのではないかと質問されることがありますが、決してそのようなことはありません。
アプリを開発するのはAppleではなく企画・開発企業です。開発技術の選択肢はさまざまです。iPhone/iPad端末でARを実現する場合のハードルが下がったと理解してもらえればいいと思います(iOS11以上、iPhoneでは6s以上/iPad ではPro以上の端末でのみ動作することについては注意が必要です)。

例えば、世界的にヒットしたARアプリ「Pokémon GO」であれば、ARKitに対応することにより、ポケモンがまるで地面を自然に歩き回り、本当に目の前にいるような表現をすることができるため、利用者に対し、よりリアルな体験を提供できるようになります(12/21にAR+としてこの機能を搭載しました)。その他でも、この記事が公開される頃には、 ARKitの技術に対応したアプリがたくさんの企業から公開されていることでしょう。ぜひ新しい技術を体験してみてください。

PTC Vuforia の新しい技術では、Unityを利用することで、iOSのARKitとAndroidのARCoreを共通化することができるようになります。上記はVuforia上で動作するARKitの実行例です。

Googleもこれに合わせるようにARCoreというAR技術を発表しました。Googleは以前からTangoという高精度な空間認識技術を提供していましたが、対応する端末が限られるため従来の端末でも実現できるARCoreを提供したようです。しかしながら、ARCoreについても、対応する端末が現時点では限られているため、一般的な技術になるためには少し時間がかかることでしょう。残念なのは、ARKitとARCoreは全く異なる実装方法であるため、iOSとAndroidの両方で同じ機能を提供しようとすると、開発工数もコストも2倍近くになることですが、2018年にはUnity+Vuforiaの新しい技術で解決される可能性があるため、期待したいところです。

新しい技術は、今まで苦労して実現していたことを、いたって簡単に実現してくれることがあります。開発に数カ月かかっていたことを、1カ月程度でいとも簡単に開発することができる場合もあります。また、古い技術と新しいことを融合させることでよりユニークな企画を実現することもできるでしょう。新しい方式の出現により、今まで実現ができなかった新しい広告方式を生み出すことができるチャンスがあるため、常に動向をチェックしておくことが必要です。

PTC Vuforia の技術とUnityを利用し、CADデータに基づいて認識とトラッキングを行う新しい技術のデモ。特徴的なデータが得られない単色の自動車や、機械などでARが実現できます。

YouTube : https://www.youtube.com/watch?v=hRc_0GtNVq4

”体験型広告”を実現する技術【拡張現実(AR)】による実現方法

ARについてはさまざまな技術がありますが、広告関連では下記のような方式が主に用いられます。どれが優れているかということではなく、企画に合わせて適切な方式を単独または組み合わせて実現します。方式はあくまでも、技術にしかすぎませんので、この中にどのような広告を潜り込ませるかという点はアイデア次第となるでしょう。

1. ARマーカー認識:幾何学的な模様をアプリのカメラで認識することで、デジタル情報を重ね合わせて表示するタイプです。認識対象がQRコードのように見た目が分かりやすいため、紙面やイベント会場のポイントとして今でも用いられています。

2.画像認識:写真、イラストなどの印刷物や映像などの平面的な情報をアプリのカメラで認識し、デジタル情報を重ね合わせて表示するタイプです。印刷物から表示対象が自然に飛び出してくるような体験を利用者に伝えることができます。食品のパッケージなどからキャラクターを出現させ一緒に写真が撮れるという方式はとても多く用いられています。

3.顔認識・身体認識:スマートフォンや、デジタルサイネージに装着されたカメラに映し出された顔や身体に、デジタル情報を重ね合わせて実現する方式です。ふと店頭の画面を見ると自分の姿に洋服が重なって見えたり、キャラクターの顔に変身していたりというような驚きや楽しみを与えるため、導入事例は多く今でも効果的な方法です。

4.空間認識:今自分のいる空間情報(部屋の中など)を計測し、まるでその空間や床の上に、対象物が存在するような表現が可能となります。ARKitやARCoreはこの技術を簡易にした方式で、空間の平面情報と光源情報をアプリに反映させ自然に3DCGを出現させることができます。

5.位置認識:GPS、Beaconなどの位置情報に基づいてARコンテンツを画面上に表示したり音声ガイドを実現します。道案内や観光案内、店舗案内、イベントなどで用いられます。

6.音・光認識:音や光を認識してデジタルコンテンツを表示させる比較的新しい技術です。

【仮想現実(VR)】による実現方法

VRについては、技術や3D、アニメーションの精度の差はあれ、体験側からするとどれも比較的類似していると思います。方式は大きく2つに分類することができるでしょう。スマートフォンを箱のような装置に装着するだけで安価に体験できる方法と、高性能なパソコンに接続することで高精細なVRが体験できる方法です。最近は端末本体のみで動作するタイプも発売されていますので、その進化は止まりません。コンテンツについては、仮想世界を全てソフトウェアで構成する方法と、360度カメラで撮影した実映像を使用する方法の2つに分けられます。

VRは見えている世界を全てデジタル情報で構成するため、現実世界の状態が直接影響しないことがARとの大きな違いとなります。しかし最近のVRは実空間や同時に実行している他人とシームレスに連動させることができるようになりつつありますので、ARやMRとの境界線をつけることも意味がないかもしれません。下記にVRで実現できる幾つかの方式を紹介します。

1.TV映像などに表示されている看板にデジタル広告を合成し、映像を視聴している利用者に自然に広告を提示します。意識して見られないかもしれませんが、記憶に焼き付けることができるでしょう。

2.VR映像の中の店舗やイベント会場に、リアルな世界にある商材を出現させ、リアル世界とのつながりを提供します。仮想世界で直接商品が購入できるような機能も出現するでしょう。

3.VR動画を視聴する前後への広告挿入、視聴中のスクリーン内またはスクリーン外に広告を表示します。いわゆるTVCM的または、Web広告的な手法です。自分が行ってみたい観光名所、イベント会場のVRで、自分の興味に合う商品を見た場合、広告に対して決して悪い印象は抱かないでしょう。

4.自分がVR内ストーリーの主人公になっているなど、VR体験そのものが広告となることでその商品やコンテンツへの思い入れを深めることができるでしょう。

効果測定について

広告主の方からすると、気になるのは実施したことに対する効果の数値化だと思います。ARの画像認識タイプであれば、何回ターゲット画像が認識されたか、位置情報タイプであればどの場所で多く利用されたか、どの場所がよく見られたか、どのくらい商品が購入されたかということが必要になると思います。このような情報の取得は、アプリの作り方や効果測定用のツールをアプリに組み込むことで容易に得ることができるようになりつつあります。

VRでは、まだ実現性は低いのですが、視点追跡による興味抽出、瞳孔、脈拍、汗などの生体データからの効果測定値も今後得ることができるようになることでしょう。

最後になりますが、ARもVRもMRも、技術は日々進化を続けています。例えば今話題のAIとの連動により、まったく新しいタイプの広告ツールが生み出されると思います。本記事が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。

恵比寿大学

広告業界に知見のある人を講師として招き、jeki社員を対象とした多彩な講義を展開する「恵比寿大学」。このコンテンツでは、その一部を広く社外にも発信していきます。

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  • 亀山 悦治
    亀山 悦治 ナレッジワークス株式会社 取締役

    1987年からオフコン、クライアント&サーバ系のシステム開発に従事。1999年からWeb系システム開発会社に移籍後、主にWebサイト開発のPMを担当。2004年からナレッジワークスにて、新規サービスの企画等を担当。2009年より同社にてAR・VR・MRを使用したソリューション開発、実用化のための企画・提案・アプリケーション開発を担当。AR・VR・MRについては、一般向け・企業向けセミナーの講師を年に数回以上実施。AR関連書籍の執筆等、精力的に活動を行っている。

    ナレッジワークスのサイト http://hp.knowledge-works.co.jp/

    出版物
    感覚デバイス開発-機器が担うヒト感覚の生成・拡張・代替技術「第3編 感覚デバイスが創る未来生活」
    http://www.nts-book.co.jp/item/detail/summary/it/20140700_19.html
    よくわかるAR〈拡張現実〉入門
    https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=1506