クリエイター、バディの「多彩な力」が、動画広告の未来を切り拓く — 市川義典(UUUM)×小林孝央(ジェイアール東日本企画)

jeki × 宣伝会議 共同取材シリーズ VOL.2

宣伝会議

(左)UUUM(ウーム)執行役員、バディ・プランニングユニット担当 市川義典氏 (右)ジェイアール東日本企画 デジタルソリューション局 チームリーダー 小林孝央

広告・マーケティング業界にとって、消費者とのコミュニケーションに欠かせないチャンネルとなりつつある「ネット動画」。そんな今、注目を集めているのが、HIKAKIN、はじめしゃちょー、フィッシャーズ等の人気YouTuberが所属する「UUUM(ウーム)」です。

2013年の創立以来、ネット動画界のクリエイターのマネジメント業務のほか、企業や自治体とのタイアップ動画制作、イベント運営、キャンペーン展開など、多彩なコンテンツを発信して急成長した注目企業のキーマンに、jekiディレクターが、「ネット動画」の新たな可能性について話を聞きました。

インフルエンサーとしてのYouTuberの強みは〝距離感の近さ〟と〝正直さ〟

小林
市川さんは、ネット動画を活用したインフルエンサー・マーケティングの強みはどこにあると考えていますか?

市川
YouTuberの強みは、距離感の近さ。これはデバイスの特性も大きい。テレビが家族みんなで視聴する1対nのコミュニケーションだとしたら、スマートフォンは1対1。非常にパーソナルな体験なので、視聴者は「自分に語りかけてくれている」という感覚で受けとめる。しかも人気YouTuberは連日動画をアップし続けるので、接触も圧倒的。ファンにとっては友達とか近所のお兄ちゃん的存在なので、過去にいわれた口コミマーケティングに近い、またはそれ以上の効果を得るのだと思います。

小林
「あの人が言うなら、自分も」という影響力には、信頼感も必要ですよね。

市川
YouTuberの言動には〝事務所チェック〟のにおいがしません。本人がやりたいことをやって、感じたことを本音で語る。そういった正直さや人間くささが、信頼感を与えるのだと思います。

小林
UUUM所属のYouTuberのコンテンツには、会社として口出ししないのですか?

市川
YouTubeというプラットフォームは、個人がモノをいう世界。クリエイターの個性を潰すような〝管理〟はすべきでないというのが僕らの考え方です。僕らはクリエイターの付き添いを「マネージャー」ではなく「バディ」と呼んでいます。マネージャーは、マネジメント、つまり「管理する人」のことですよね。僕らのスタンスはそれとは違う。クリエイターと同じ目線に立ち、共に成長する「バディ(相棒)」なんです。よりよいコンテンツというのは、クリエイターとバディが一緒に成長することで実現すると考えています。コンプライアンスや著作権に関する勉強会等は行っていますが、会社としては、クリエイターとバディが一緒に学ぶ場を提供し、学んだことをどう生かすかは、クリエイターとバディ次第ですね。

UUUM(ウーム) 市川義典氏

多くの人を惹きつける動画コンテンツは「体験・共感」こそが命

小林
インフルエンサー・マーケティングというと、ほとんどの企業は真っ先に「バズ」を期待すると思うのですが。

市川
最近の消費者は敏感ですから、バズを目的に作った動画の〝あざとさ〟も、ちゃんと感じ取る。私は動画の命は「体験・共感」にこそあると思っています。ネットの世界は、面白ければ消費者のほうから見に来てくれるけれど、面白くなければシェアをしない。では、「面白いとは何か」ということになりますが、これは本当に感覚的で、言葉にするのは難しい。でも確実に言えるのは、クリエイターとバディはもちろん、制作に関わった人間が本気で楽しく作った動画というのは、必ず当たる。「楽しさ」の体験が伝わってくる動画というのは、「バズらせること」を目的にお金をかけて作ったものより、ずっと大きな効果を上げる。

小林
過去にそういう例がありますか?

市川
大食いYouTuberの木下ゆうかと吉野家さんのタイアップ動画がいい例かもしれません。彼女がプロレスラーと吉野家さんに行って、牛丼を18杯も食べるという内容で、広告というよりも木下ゆうかの日常動画の延長にあるようなタイアップ形態です。投稿1ヶ月の再生回数は30万回程度。それが2年たった今、446万回を超える動画になりました。再生回数がこれだけ多いと、吉野家さんや木下ゆうかのファン以外もアクセスしてくる。消費者とのエンゲージメントを作ったという意味では、吉野家さんにとってはブランディング・コンテンツに近い効果があったのではないかと思っています。

小林
消費者を惹きつける「楽しさ」があったわけですね。

市川
この動画の場合、派手な「楽しさ」とは少し異なるかもしれません。人気YouTuberの動画というのは、「くだらないけど、笑える」とか「ほのぼのして、つい見ちゃう」という不思議な引力を持っています。この動画は、そういう「面白さ」がじわじわと伝わっていくタイプ。「面白さ」にもいろいろあって、本当に一言では表現しにくい。

小林
なるほど。従来のブランディング・コンテンツというと、テレビを軸にした伝統的なメディアが主体で、ネット動画を利用するにしても、テレビCMのような派手なコンテンツが中心でした。でも今後は、YouTuberの日常動画のような一見地味な動画にも、大きな可能性があるということですね。

市川
純粋に「体験・共感」を積み重ねることで、消費者の心に残るようなブランディングが可能だと思います。しかも、従来より低コストで実現できると感じます。

ジェイアール東日本企画 小林孝央

クリエイター、バディそれぞれが持つ多彩な力こそがUUUMの原動力

小林
ところで、「面白さ」をジャッジする感性を持ち、かつ個性の強いクリエイターたちと対等に渡り合えるような「バディ」は、どうやって育成するのですか?

市川 うちの社員は、入社すると最初の1〜3ヶ月間は、1日8時間、毎日動画コンテンツを見るだけの日々を過ごします。動画には独特のカルチャーがあるし、旬な話題も日々変わる。そういう空気を感覚としても持っていないと、バディは務まりません。また「エンタメ補助」という制度もあります。月1万円を上限に、舞台、映画、マンガなどが対象です。「育てる」ノウハウは特にありませんが、バディが「自分で育つ」ための環境は整えています。

小林
いろんな趣味を持つ社員が育ちそうですね。

市川
うちの社員は前歴もさまざまなんです。ウエディングプランナーとか、玩具メーカー、美容部員や不動産の販売員とか……。それぞれが前職の経験に加えて、ディープな「趣味」も持っていますから、どんなクライアント、どんな商品でも、誰かしら詳しい社員がいます。UUUMには今、5,000を超える個性豊かなチャンネルがあります。彼らの「面白さ」は、一人ひとりすべて異なりますから、「面白さ」も最低5,000種類はあるということ。それをさまざまなバックグラウンドを持つバディが支え、視聴者やクライアントのニーズに応えられる「本当に面白いコンテンツ」に作り上げていく。この「多彩な力」こそが、UUUMの原動力だと自負しています。

【対談を終えて】
日々、玉石混合のコンテンツがひしめき合う動画サイトを舞台に躍進してきたUUUMの原動力は、「個の力」であると感じました。クリエイターとバディ双方が持つパーソナルな経験や感性を積極的にビジネスに活用し、従来の広告的手法とは一線を画す独自のコンテンツを作り上げているのです。UUUMが大切にする「純粋な面白さ」が発揮されたコンテンツは、消費者が毎日つい見続けてしまうような不思議な魅力を持っています。消費者とクライアント(広告主)、双方が本当に欲しかったのは、まさにそんな「面白いコンテンツ」なのだということが今回の対談でよくわかりました。ネット動画業界の専門家としてクライアントを巻き込み、導くこともUUUMの「クライアントファースト(顧客志向)」なのだと感じました。

jeki × 宣伝会議 共同取材シリーズ

昨今の市場環境やコミュニケーション環境の変化のなか、成長を遂げる・ヒットを生むその底流には何があるのか。その一端を探るべく、jekiは宣伝会議マーケティング研究室と一緒に、ヒットコンテンツ・躍進企業のキーマンの意識に流れる「顧客視点・顧客志向」を紐解いていきます。

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  • 小林 孝央
    小林 孝央 デジタルソリューション局 デジタル プロデューサー

    2006年jeki入社。デジタル領域を中心としたコミュニケーションデザインの業務に従事。外資系通信メーカーや国内リゾートサービスなどのブランドサイトの企画/制作、SNSを活用したキャンペーンの設計、集客プランに至るまで様々な側面で顧客のブランディング価値向上や売上向上を支援している。