TBS“逃げ恥”プロデューサー那須田淳さんが手がけるファミリー向けアニメーション
~子供に、大人と同じように向き合って番組を作る~

エンターテインメント VOL.1

写真:那須田 淳 1988年TBS入社。ドラマ、バラエティ、映画の演出・プロデューサーを多数手がけ、現在、事業局映画・アニメ事業部長。

2018年のテレビアニメ放映が決まった『新幹線変形ロボ シンカリオン』。もともと、jeki・小学館集英社プロダクション・タカラトミーの3社で企画・開発したコンテンツで、これまで新幹線がロボットに変形するタカラトミー・プラレール「シンカリオン」を中心に各種ライセンス商品を展開してきました。

アニメ化を手がけるのは、『逃げるは恥だが役に立つ』『コウノドリ』『重版出来!』など数々のドラマをヒットさせてきたTBSプロデューサー那須田淳さん。大人と子供の枠を越えて愛される作品を生み出す秘訣とは・・・。作品に込めた思いと狙いを語ってもらいました。

アニメ化のきっかけは新幹線が変形するという“ドリーム感”

©プロジェクト シンカリオン・JR-HECWK/超進化研究所・TBS

TBSでは、2016年4月から、土曜の朝7時にアニメーション枠を作りました。最初の作品を放映している中で、僕らは次の作品を考えなくちゃいけない。その時タカラトミーさんで見せていただいたのがシンカリオンです。プラレールの新幹線が変形する。それを見た時に「説明なしでもアニメーションを見たいと思える」素材だと感じました。

日本で新幹線を知らない人はまずいないでしょう。そしてトランスフォーマーもある程度認知されています。だから「新幹線が変形する」というだけで、凄いよね、どんなものだろう、と思うわけです。自分でも見たくなりましたし、玩具のプロモーション映像を見てその直感が確信に変わりました。

みんなが知っている。誰もが見たい。そういう意味で、ファミリー・ターゲットのアニメーションにはぴったりなんじゃないか。クルマや飛行機が変形するのはなんとなくイメージできるけれど、新幹線っていうところに驚きがある。そこには”ドリーム感”がありますよね。それがいちばんのスタートラインです。

どんな企画でも、自分がストレートに見たいと思う気持ちや第一印象が大切ですが、それに加えてこの企画には新幹線という素材の魅力があります。
今、新幹線網は全国に広がっています。しかも特定の地域にだけ走っている車両があったり、同じ地域でも車両に違いがあったり、ドクターイエローのように世代的にも地域的にも広く楽しめるものもある。

エンタテインメントの大事な要素のひとつに、作品の中に自分の応援したいものを見つける、という楽しみがあります。ご当地キャラなんかは、やっぱり応援したくなりますよね。こうした理屈なしに楽しめる要因は大切です。自分が好きな新幹線や地元の新幹線が活躍するのを見るのはすごく楽しいでしょう。そういう意味で、「シンカリオン」はうってつけの企画だと思ったんです。

家族みんなで見てもらえる作品にしていきたい

家族で見てもらうというのが、エンタテインメントの楽しさのひとつでもあるので、そこはしっかり追求したいと思っています。子供向けではあっても目指しているのは家族みんな、なんですね。だから、作品には世代を超えて楽しめる要素がほしい。

その点、「シンカリオン」は家族の会話になりやすいと思うんです。あんなところに行ってみたいとか、地域の地理ネタとか。鉄道というのは世代を超えて会話が広がりやすい。みんながそれぞれに、いろいろなことを言って、見て楽しむだけじゃなく「見ている行為を家族みんなで楽しむ」。「シンカリオン」には、そういうアニメのいいところがたくさんあります。

また、この作品は主人公が小学生なので、「若い家庭のあるある」的な面白さも盛り込んでありますね。ホームドラマ的要素、極端にいうと「クレヨンしんちゃん」みたいな楽しみを加えることで、男の子でも女の子でも楽しんでもらえるように制作しました。そもそも家庭であったり、「子供ってなんだろう」というテーマで入っていますから、男女どちらかに特化したということはありません。
せっかく土曜日の朝なので、小さいお子さんと大人と一緒に見てほしい。そして見終わったらいろんなことを話し合ってほしい。そういう作品にしていきたいです。

子供と大人が一緒に未来を考える ~作品に込めたメッセージ~

自分の住んでいる地域で、電車が時間通りに安全に動いて、みんなを運んでいる。当たり前だと思っているかもしれませんが、日本の鉄道網は凄いんですよ。全国津々浦々にリンクしていて、精密に安全に運行している。

これって実は、自分たちの地域を守ってくれているということなんだと思います。
守られているからこそ、子供たちは安心して、夢を持って生きていける。そういうことが実はすごく大事。作品中にも、こうしたメッセージを込めた会話を増やすように意識しています。
子供たちは、そんな当たり前のように感じることを、このアニメを見てすぐに理解しなくても、成長していく過程で「あれってすごいことだったんだ」と気づいてくれる、そんな作品になると嬉しいですね。

また、子供はこれからいろいろな社会の変化に出合います。その時、自分や自分の暮らす地域や社会を守ることができるだろうか?ということを考えてほしい。そして大人は、社会を守るのは大人である自分たちの役割であるとは思い込み過ぎないで、子供と一緒に何かできないだろうか?と考えてほしい。子供の手を借りなければいけないとまではいいませんが、自分が子供だった時のことを思い出して考えてほしい。自分たちの未来を作っていくにはどうしたらいいのか、そういうことを大人と子供が一緒に考えてもらえたらいいと思っています。

この作品は、子供たちに見てほしいから、運転士は子供になります。でも、その一方で親は「こんな危険なことに子供を送り出していいのか」って思いますよね。でもそこにメッセージをうまく込められればいいなと思っています。

大人と子供が一緒になって自分たちの未来を守る。大人は大人、子供は子供、というのはある意味では間違っていないのかもしれないけれど、そう決めてしまうとお互いの深い理解ができないのではないか。だから大人は、子供をきちんと見て、子供の力を借りてもいいんじゃないか。それが子供をよく知ることに通じるのかもしれません。

すでにYouTube再生1600万! アニメ化への期待に応える秘策とは?

すでに YouTube で1600万回再生されていると話題の「シンカリオン」 PVはテレビアニメのプロモーションビデオ的な要素も大きいです。なにができるのか、とか。

アニメといってもSF(サイエンス・フィクション)ですから、SF としての設定の面白さがあります。物語の中にあるミステリー性、たとえば敵の正体であるとか、そういうSF的な楽しみを作品に入れ込むことができます。だから大人も子供も楽しめるんです。

もうひとつ、やっぱり新幹線ってすごいんですよ。「走って安全」って、日本のすごい技術がいろいろ込められているから成り立っていると思うんですよね。そういうところも紹介したい。
そもそも「緻密で素晴らしいテクノロジーが使われている身近なもの」って凄いです。だからSF的な設定が現実に負けないように、可能性にもこだわりを込めて作っています。

幅広い層に見てもらいたい。そのためには「広く浅く」ではなく、「広く深く」作る。その手間を惜しまないように作りたいので、時間ばかりかかって、全然進まないと、現場はみんな辟易していますね(笑)。

でも、そこはそう思って一生懸命にやらないといけない。「シンカリオン」は、非常に手間ひまのかかるアプローチをたくさん行っています。監督とか作画、演出担当は実際に現地に見に行って、アニメ化するうえでのディテールにこだわっています。知っている人は「あ、ホンモノだ」となるわけです。リアリティですね。

アニメを見ている人にも「細かいところまでよく見てるなあ」と思ってもらえることが大事だと思う。だから、日本中に出かけていますよ。今日も制作スタッフは九州に行きました。手間ひまが大事。そこが頑張りどころだと思っています。

© プロジェクト シンカリオン JR東日本商品化許諾済 JR東海承認済 JR西日本商品化許諾済 JR九州承認済
© TOMY 「プラレール」は株式会社タカラトミーの登録商標です。

メディア環境が多様化する今、子供に伝えるために意識していること。

限られた情報しか取得する手段がなかった昔の子供と違って、周囲にさまざまな情報が溢れているいまの子供は難しく複雑に物事を考えるようになっていますね。作り手としては、複雑なことは複雑なものとして理解してもらえばいいと思う。子供はどれだけどんな情報に触れているかわからないから、大人に対して作る時と同じように、きちんと作らないといけない。大人でも納得できる設定やフィクションを用意しておかなければ、到底今の子供には受け入れられないと思います。

たとえば新幹線はどこへでも行けるわけじゃない。線路の幅の関係で行けない場所もあるんです。そこを縦横無尽に行くのもカッコいいけれど、鉄道に詳しい子供は「でも、あそこは行けないよね」って思うわけです。

じゃあ、行けない前提でどうしたら敵に行きつけるか? 行けないところを行けないという前提で作るから、逆にそういうところが面白くなります。たとえば四国には新幹線が走っていないけれど、それならどうやって四国へ行くか? 複雑な情報があって、それを話として取り込むと、一緒に考えることができる。

作り手としては「自分ならどうするかな」ということを、一緒に考えながら楽しんでほしいんです。複雑な世の中だからこそ、そういう手法が活きると思うんです。一緒に考えることができるようなストーリーを、いまの子供たちは楽しんでくれるんじゃないでしょうか。

那須田 淳(なすだ・あつし)

1988年TBS入社。ドラマ、バラエティ、映画の演出・プロデューサーを多数手がけ、現在、事業局映画・アニメ事業部長。プロデュース作品に、ドラマ『パパとムスメの7日間』『流星の絆』『ウロボロス〜この愛こそ、正義。』『コウノドリ』『重版出来!』、映画『恋空』『ハナミズキ』『ビリギャル』など。

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