ファンの感情に寄り添い喜びと驚きを提供する横浜DeNAベイスターズ
林裕幸氏(横浜DeNAベイスターズ) x 松村大介(ジェイアール東日本企画)

2011年12月に経営権の譲渡を受けて新たな球団となった横浜DeNAベイスターズ。2017シーズンには、アレックス・ラミレス監督のもと日本シリーズにも出場。惜しくも福岡ソフトバンクホークスに敗れ、日本一は逃したものの、近年着実にチーム力を高めている。 事業面でも、顧客満足度向上のための施策を積極的に展開している。地元横浜との関係性も深まっている。地域に密着した球団として歴史を重ねる横浜DeNAベイスターズが目指すものは何か。

宣伝会議

横浜DeNA ベイスターズ 経営企画本部 経営・IT戦略部長 林裕幸氏(左) ジェイアール東日本企画 第五営業局第三局 部長代理 松村大介(右)

ターゲットのペルソナを共有することで生まれる施策への統一感

松村大介

松村
DeNAが経営権を引き継いでから、どんなことを意識して球団運営に取り組んできたのでしょうか。


私たちはコーポレートアイデンティティとして「継承と革新」を掲げています。
この言葉通り、球団が歴史を刻んできた横浜スタジアムやピンストライプのユニフォーム、応援歌「熱き星たちよ」といったものを引き継いできました。前身となる大洋ホエールズ時代から培ってきた、残すべきものはしっかり引きつぎ、次の時代に繋いでいきたいと思っています。
一方で、自分たちの活動を単にプロ野球の興行としてだけではなく、球場をひとつのコミュニティとしてとらえ、街も巻き込んでにぎわいをつくっていきたい。先例や固定概念にとらわれず、革新的な活動に取り組んでいます。

何を継承し、何を革新していくのかを考えるときに、ひとつの基準となるのがDeNAグループのミッションでもある「デライト」というキーワードです。ファンや地域の皆様など、私たちのステークホルダーに対して喜びやいい意味での驚きを与えられるかどうかという観点で、球団に関わるスタッフが共通認識を持って判断しています。

松村
アクティブサラリーマンをメインターゲットにしているのは、ベイチケというチケット購入システムや球団公式アプリといったサービスを導入したことによって集められたデータと関連性があったのでしょうか。

林裕幸氏


球団を引き継いだときには、誰が来場しているのかといったデータはありませんでした。そこで2012年や2013年ころは、満足度でチケット代が変動する「全額返金!?アツいぜ!チケット」や「ファミチケ100万円VIPパック」などの企画チケットを販売して、世の中の話題になることをとにかくやってみようというフェーズになりました。
これに並行してデータを蓄積する仕組みを構築していました。蓄積されたデータを基に、チケットをご購入いただいた方やファンクラブの入会者のデモグラフィック分析、パネル調査やインタビューなどによる定性分析をした結果、最も増えている層、いわば施策に反応している層、球団へのエンゲージメントが高い層をアクティブサラリーマンとして、メインターゲットに設定しました。
ベイチケでもデータは取れていたのですが、「BAYSTARSアプリ」でスマートチケット化したことによって、チケットの分配動向までわかるようになりました。単純な購買データだけではない情報もうまく蓄積していけば、今後、いろいろなアプローチができるのではないかと期待しています。

松村
ターゲットが定まったことで、サービスの方向性も打ち出しやすくなりましたか。


これまでは、球場内の演出やBGMの選曲、グッズの企画など、各事業部がそれぞれの意図で組み立てていたのですが、目指すべき一つの柱ができました。ペルソナも設定したので、全員がターゲットをイメージしやすくなったと思います。
アクティブサラリーマンは野球観戦の際に、同僚や子どもを含む家族、野球にあまり関心のない恋人といった周りの人を”誘って”訪れることが多いので、その周辺にいる方々についてもペルソナを設定しました。

消費者ではなくファン 熱意を共有するところにスポーツの醍醐味が

松村
プロ野球12球団中、シーズンのスローガンにコンセプトムービーをつくっているのはベイスターズだけではないでしょうか。クライマックスシリーズのラミレス監督のメモがそのままスローガンになるというのは、そのときの記憶を再び刺激するような、非常に優れたコミュニケーションだと感じました。

今回のスローガン誕生の背景にはストーリーがありました。であれば、スローガンをただ文字で発表せず、そのストーリーも伝えたいと思い、コンセプトムービーを作成しました。
今回以外でも、いかにお客さんの記憶に残り、理解、共感してもらうかという点には気を使っています。
私たちのお客さまは「消費者」ではなくて「ファン」です。勝敗による喜びや悔しさといった感情が重要なポイントになるので、取り組みを伝える過程においても、ストーリー性を持たせることは重視しています。

松村
2017年の3月には横浜市と「スポーツの振興と地域活性等に関する包括協定(I ☆ YOKOHAMA協定)」を結びました。自治体、地域との協力体制を進めることの狙いや効果はどんなものですか。


私たちの初期の課題は、DeNAが横浜に根付いていくという想いをしっかり理解してもらうことでした。
そこで私たちの意志をはっきりと見える形で打ち出すために「I ☆(LOVE) YOKOHAMA」プロジェクトを展開し、球団のイメージを横浜の街のイメージに近づけるための施策として、球場スタッフの制服をセーラー服風にしたり、ユニフォームの青も海を感じさせる色調に変えたりしてきました。また、ビジター用の胸ロゴから企業名を外し、街の名前である「YOKOHAMA」としています。今シーズンからはビジター用のキャップも企業ロゴから、「YOKOHAMA」の頭文字である「Y」になります。
「横浜DeNAベイスターズ」はある意味、公共財だと思っているので、地域と繋がることは最も大切なことだと考えています。

松村
横浜市は自治体のまちづくりの先行事例としても紹介される機会が多いですが、市の受け入れ体制が進んでいると感じることはありますか。


私たちはこの街にスポーツの力で賑わいをもたらす『横浜スポーツタウン構想』を掲げています。その発信拠点である「THE BAYS(ザ・ベイス)」を2017年3月から運営していますが、この建物は1928年にできた歴史的建造物であり、横浜市の有形文化財に指定されています。
横浜市の文化観光局が創造産業の集積を推進し、賑わいの創出及び経済の活性化につなげる中核施設として活用するため活用事業者を公募した際、プレゼンテーションを通じて私たちのこれまでの取り組みや「スポーツ×クリエイティブ」という目指す形を理解していただき、事業者として選定されたというのは、横浜市の懐の深さかもしれません。

松村
スポーツを事業として扱う価値や意味についてはどう考えていますか。


昨年は「忖度」、かつては「空気を読む」という言葉が流行ったように、日常生活では気持ちや感情を抑え、他人の気持ちを推し量ることが美徳とされがちな中、スポーツの試合や音楽のライブなどは、日々抑えがちな感情を爆発させ、周りの人と共有できる場だと思います。
特にスポーツは、応援するチームへの愛情があり、一緒に観戦する人と思いを重ねることで一体感が生まれます。そこに勝敗という先の読めない要素が加わることで、より人をのめり込ませるものになります。
こうした感情のうねりはほかのサービスでは創り出せない、伝えられないものだからこそ取り組む価値、意味があると感じています。

【対談を終えて】
観客動員数やファンクラブ会員数が右肩上がりに増えている背景に、ファンとの間で丁寧なストーリーやビジョンの共有を非常に大切にされていることがあるのだと感じました。歴史的、地理的背景、そして現在進行形で経験している背景を丁寧に紡いでいきながら、サービスやメッセージの形でアウトプットしていった結果が、チームとファンだけでなく、選手・球団関係者の気持ちも一丸となったチーム経営に結びついているように思いました。

球団と選手・ファン・地域が一丸となっている横浜DeNAベイスターズは、2018年ペナントレースにおいて、勝敗はもちろんのこと、顧客視点の経営やサービスにおいても世の中に喜びと驚きを届けてくれそうです。

jeki × 宣伝会議 共同取材シリーズ

昨今の市場環境やコミュニケーション環境の変化のなか、成長を遂げる・ヒットを生むその底流には何があるのか。その一端を探るべく、jekiは宣伝会議マーケティング研究室と一緒に、ヒットコンテンツ・躍進企業のキーマンの意識に流れる「顧客視点・顧客志向」を紐解いていきます。

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  • 大介松村
    松村 大介 第五営業局第三部 兼 経営企画局 エリア価値向上プロジェクト 部長代理

    2003年jeki入社。以来14年間、営業部門に配属。菓子メーカー・精密機器を長く担当し、コンテンツを活用したビジネスを多く経験。 2016年からは経営企画局 エリア価値向上プロジェクトにも参画。