「本気」の姿勢がファンのブランド愛を生み出す、BAKEのものづくり 黄珊珊氏(BAKE) × 若松数(ジェイアール東日本企画)

jeki × 宣伝会議 共同取材シリーズ VOL.5

チーズタルトの「BAKE CHEESE TART」、シュークリームの「CROQUANTCHOU ZAKUZAKU」、アップルパイの「RINGO」などの人気スイーツ店を展開するBAKE。1ブランド1商品、工房一体型の店舗など、従来の洋菓子店にはないコンセプトが特徴の一つだ。2013年の創業から、現在は8ブランド、国内外合わせ90店舗にまで拡大している。旗艦ブランドである「BAKE CHEESE TART」は5月にはアメリカ・サンフランシスコに初出店を果たした。BAKE急成長のポイントはものづくりへのこだわりにあった。

写真右から黄珊珊氏(BAKE) 、 若松数(ジェイアール東日本企画)。

「王道」のカテゴリーへ参入し 個性を際立たせる

若松:BAKEは「お菓子のスタートアップ」というポジションを打ち出しています。IT的なイメージの「スタートアップ」という言葉と「お菓子」の組み合わせは非常にユニークですね。

BAKE 国内事業推進本部 BAKE事業部の黄珊珊部長。

黄:私たちは「お菓子を、進化させる」というミッションを掲げています。旧態依然としたところがある洋菓子業界で、新しいことや、“お菓子屋なのに”と言われるようなことに挑戦したい。1ブランド1商品や、工房一体型の店舗づくりなどもその一環です。「お菓子のスタートアップ」というのは、こうした姿勢をわかりやすく表現したものです。

BAKEを創業し、昨年会長になった長沼真太郎は、北海道の洋菓子店「きのとや」創業家の出身で、幼い頃からお菓子が身近にありました。「きのとや」は北海道から出ないことを戦略にしていましたが、長沼は美味しいお菓子をもっとたくさんの人に広めたいと思い、「BAKE」を創業しました。
私もマーケティングを考えるときにはお菓子づくりへの思い、本気さを意識しています。
店舗のデザインは五感を刺激できることを目指しています。工房のライブ感や商品を並べたときの見え方には気を使っていますし、香りも来店のきっかけになる。香りは看板よりも効果が高い場合もあり、そういうところも今までの洋菓子屋さんにはないアプローチだと思います。

旗艦ブランドである「BAKE CHEESE TART」

若松:「1ブランド1商品」の戦略も大きな特徴ですね。商品ラインナップを増やせば、出店リスクもコストも下げることができる。それでもこだわりを貫いているのは、やはりそこへの思いが強いのでしょうか。

黄:ブランドの1商品が売れなければそこで終わり。そういう覚悟を持ってものづくりに取り組んでいます。だからこそ原材料にもこだわっていますし、味も常に改良を続けています。そこは他社と違うところかもしれません。

若松:新しいブランドの商品を何にするか決める判断も非常に重要になると思います。
5周年記念パーティーで行われた、お菓子を擬人化したファッションショーでもブランドそれぞれの個性が大いに発揮されていました。BAKEの個性豊かな商品開発はどのように進められているのでしょうか。

5周年記念パーティーで行われた、お菓子を擬人化したファッションショー

黄:私たちは「8割主義」という10人いたら8人が知っている、好きということを基準に参入する商品カテゴリーを選んでいます。チーズタルトはもちろん、シュークリーム、アップルパイなど、大半の人が知っていて、好き嫌いが少ない、いわゆる「王道」のところです。
必然的にどこへ入っても後発になるので、ただ美味しいだけでは勝負できない。味はもちろんのこと、パッケージや店舗のデザインなどでユニークネスを出しています。
ファッションショーもそうですが、お菓子屋「なのに」というチャレンジは常に心がけています。

若松:BAKEの商品はパッケージや店舗がおしゃれなので、一見SNS映えを狙っているように見えて、中身のお菓子にはとても実直な美味しさを感じます。やはり本質は味ということでしょうか。

黄:はい、ただSNS映えするもの、という考えでものづくりはしていません。流行りで終わらせたくないという意識は強いですね。
ブランドを通してお客さまにどう感じてほしいか、どうなってほしいかというコンセプトを必ず立てています。そのコンセプトは、クリエイティブやマーケティングなどが、頭から煙が出るほど考えに考え抜いて形づくっています。
商品開発でも何度も試作品を食べてみて、みんなが満足したものでないと販売しません。まずは美味しさから、そこはどのブランドでもブレない部分です。

店頭やイベントでファンの声を聞き ロイヤルカスタマーの期待に応える

若松:商品開発において、お客さまの声を聞くことはあるのでしょうか。

黄:当社は小売なので、日々対面するお客さまの声をとても参考にしています。
イベントもいい機会だと考えています。座談会調査となると、呼ばれる側も身構えてしまうので、気軽に参加できるイベントで直接会話する方が本音に触れることができます。
自由ヶ丘店では昨年、オープン3周年の日にファンイベントを行いました。以降、毎月コーヒーセミナーを行っています。そこに来るお客さまには、とても濃い意見をいただいています。
先月限定販売した「焼きたてストロベリーチーズタルト」は、お客さまの「しょっちゅう食べに来ているからスタンダードなチーズタルトだけだと飽きてしまう」という声や、「チーズとフルーツは絶対に合うと思う」という意見を受けて、ブランド初のフルーツ系フレーバーとして開発しました。
私たちは今、既存のお客さまとの関係構築を課題としています。立ち上げ以来、多くのメディアに取り上げていただいたこともあって売れ行きを伸ばしましたが、一度買ってもらったあとのケアは充分ではなかったので、今いるお客さまを大切にしようという方針を固めました。 イベントもその一環ですし、今年の1月からはLINE@のアカウントを開設しました。店頭告知のみですが、すでに4万人以上が登録しています。
LINE@のアカウント開設もお客さまの「イベントがあるのを教えてくれたら来店したのに」という声がきっかけになっています。

若松:情報が欲しいとお客さまの方から言っていただけるのは、作り手としては大変うれしいことですね。

黄:派手なプロモーションはできませんが、地道に、一人でも多くのお客さまに愛されるブランドになって欲しいという思いでやっています。
昨年行ったグループインタビューでは、私たちが他のブランドと違うところはどこだと思うかという質問に対して、「本気感」という回答が多くありました。ほかにも1ブランド1商品に真摯に向き合って欲しいという意見もあり、私たちの思いは伝わっているのかなと感じています。

若松:8ブランドに拡大した今、ひとつのブランドをきっかけに他のブランドのお客さまにもなっていただく水平展開も、お考えになっているのでしょうか。

黄:元々、そういう発想はありませんでしたが、今はブランドそれぞれの個性も強くあるので、BAKEの中でブランドを回遊してもらうことも理想として持っています。
福岡の天神エリアには3ブランドが近い距離に店舗を構えているのですが、先日視察に行くと全ブランドの紙袋を持って歩いている人も見かけました。今後は、そのように店舗が隣接していても、複数のブランドを楽しんでもらえるような仕掛けをしていきたいと考えています。

今年5周年を迎えたBAKEは現在、個性豊かな8つのブランドを展開する。

【対談を終えて】
ひとつのお店に、ひとつの商品しか置かない。そのこだわりの姿勢から、お客さまは自然と「商品への本気」というメッセージを受け取っている。企業の「態度」がブランドを創る、まさにそのお手本を見せていただきました。
BAKE様は「お菓子のスタートアップ」というユニークなポジションで次々と新しいことに挑戦されていますが、お話を聞けば聞くほど、実は「美味しいお菓子を届けたい」というまっすぐな創業の想いが、すべての行動指針になっていることがわかります。
企業の「想い」と「態度」、この2つなくして本物のブランドは生まれない。そのように強く感じさせていただいたインタビューでした。 BAKE様から次はどんなコンセプトのお菓子が生み出されるのか、いちファンとして楽しみにしております!

上記ライター若松 数
(エグゼクティブ プランニング ディレクター)の記事

jeki × 宣伝会議 共同取材シリーズ

昨今の市場環境やコミュニケーション環境の変化のなか、成長を遂げる・ヒットを生むその底流には何があるのか。その一端を探るべく、jekiは宣伝会議マーケティング研究室と一緒に、ヒットコンテンツ・躍進企業のキーマンの意識に流れる「顧客視点・顧客志向」を紐解いていきます。

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  • 若松 数
    若松 数 コミュニケーション・プランニング局 部長/エグゼクティブ プランニング ディレクター

    メーカーでのマーケティング経験を積んだ後、2007年jeki入社。ストラテジック・プランナーとして、化粧品、流通、テーマパークなどのクライアントを担当。生活者・広告主・プランナーの視点を行き来して、日々課題に向き合う。